【誰でもわかる】高炉と電炉の違いを解説!【製鉄法】

2つの製鉄法を学ぶ!高炉と電炉の違いとは? 生活に役立つ知識
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日本は鉄鋼業が盛んな国で、多くの鉄を生産しています。

鉄を作る炉のことを“製鉄炉”と言いますが、いま地球環境に優しい製鉄炉として“電炉”が注目されています

また、従来主流であった“高炉”を“電炉”に置き換える動きも加速しています

そもそも高炉とは何か、電炉とは何か、本記事ではそれらについて分かりやすく解説しています。

本記事で分かること
  • 高炉と電炉の違い
  • 高炉が電炉に置き換わっている理由
  • 注目される新しい製鉄技術

この記事は、現役の材料エンジニアが書いています!

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日本は鉄鋼業が盛ん

日本の鉄鋼業の状況

まずはじめに、日本は鉄鋼業が盛んな国であることをご存じでしょうか。

鉄鋼業とは、鉄を生成し、建物や自動車などに使われる鉄鋼材料を作る産業のことを言います。

総務省・経済産業省の『経済構造実態調査』によると、2022年における鉄鋼業の製造品出荷額等は24兆円で、従業員数は22万人となっています。多くの人が鉄鋼業にかかわっており、鉄鋼業は一大産業となっています。

粗鋼生産量について見てみると、2023年における国内の粗鋼生産量は8,700万トンとなっています。これは中国の10億2,000万トン、インドの1億4,000万トンに続く3番目の大きさであり、日本は世界でも上位に位置する鉄づくり大国となっています。

粗鋼(そこう)とは?

鉄鋼メーカーによって生成された、圧延や鍛造などの加工が施されていない“生の鉄”のこと。
景気がよいと鉄の需要が増えるため、粗鋼生産量は景気の動向を示す経済指標となっている。

さらに日本は、作った鉄を海外に多く輸出しています。日本産の鉄は品質が高く、世界で高く評価されています。

鉄の使用先について見てみると、多くはビルや橋梁など、建築・土木用の材料に使用されています。また、自動車、船、産業用機械などにも鉄が多く使用されています。プラントや発電所の建設にも鉄が欠かせません。

鉄は多くの分野で需要があり、鉄が無いと多くの産業が成り立ちません。それくらい鉄は重要な金属材料です。

このように日本は鉄鋼業が盛んな国であり、鉄鋼業があらゆる産業の基盤となっています。そんな鉄鋼業において“高炉”と“電炉”は、鉄の生産を担う重要な生産設備となっています。

高炉と電炉がどのようなものなのか、以降で詳しく見ていきましょう。

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高炉と電炉の役目

高炉と電炉は、どちらも鉄づくりの心臓部とも言える生産設備です。鉄を作る鉄鋼メーカーは、これらの設備を持たないと鉄を作ることができません。

ここで一旦、鉄がどのようにして作られるかを見ていきましょう。

次の図は、鉄を生成して鉄鋼材料を作るプロセスを示したものです。

鉄鋼材料の製造プロセス概要

この図のように、鉄鋼材料は多くのプロセスを踏んで作られます。基本的な流れは

①原料から鉄を取り出す。

②取り出した鉄を精錬して不純物を取り除く。

③精錬した鉄を冷やし固める。

④形を整えて強靭な鉄鋼材料に仕上げる。

このようになりますが、原料から鉄を取り出す役目をもつ生産設備こそが“高炉”と“電炉”です。鉄を作るときは、どちらかの炉が使用されます。

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高炉の詳細

高炉
高炉の外観(出所:JOE NISHIZAWA PHOTOGRAPHS HP)

高炉は、とっくり状の形をした筒状の炉です。鉄の生産にかかわる数ある設備の中でもひときわ大きく、高くそびえ立つ姿から「高炉」と呼ばれています。

高炉では原料を高温で燃焼させ、鉄を取り出します。高炉は国内において古くから鉄の量産を担ってきた主要な製鉄炉であり、高炉は製鉄の象徴とも言える存在です。

高炉は、次のような特徴があります。

  • 原料に鉄鉱石を使用する
  • 鉄鉱石とコークスを化学反応させて鉄を取り出す

このように、高炉で使用される鉄の原料は「鉄鉱石」となっており、鉄鉱石から鉄を取り出します。

鉄鉱石とは、自然から採掘された鉄の鉱石のことです。その見た目は鉄とはほど遠く、物質の状態としては酸化鉄です。(酸化鉄=鉄と酸素が強く結合している状態の鉄のこと)

鉄鉱石
鉄鉱石の写真(出所:鉄鉱石って、なに?その生い立ちに迫る|日本製鉄刊行物)

鉄鉱石から鉄を取り出すには、鉄と結びついた酸素を切り離す必要があります。物質から酸素を切り離す操作のことを「還元」と言います。

高炉ではコークスと呼ばれる還元剤を使用し、鉄鉱石を鉄に還元します。鉄鉱石とコークスを高温で燃焼させると、コークスに含まれる炭素が鉄鉱石内の酸素をうばい、鉄が生成されます。

高炉で鉄が作られるプロセス

高炉で鉄を作るメリット・デメリット

高炉で鉄を作るメリットは、次の通りです。

  • 不純物が少ない高品位の鉄を作れる
  • 鉄を大量生産できるため、コストが安い

鉄鉱石内には硫黄やケイ素などの不純物が多く含まれており、これらは生成された鉄に混ざってしまいます。しかし、その後さまざまな精錬処理が施されることで鉄から不純物が取り除かれていきます。

そのため、高炉で作られた鉄は不純物が少なく、高品位の鉄となります。自動車に使用される“ハイテン”や“電磁鋼板”などの高機能鋼材は高品位さが求められるため、高炉で作ることが必須となっています。

また、高炉では1日に1万トンもの量の鉄を作ることができます。そのため、低コストで鉄を作ることができます。

一方で、高炉には次のデメリットがあります。

  • CO2の発生量が多い
  • 設備規模が大きいため、新設に膨大なコストを要する

高炉では炭素のかたまりであるコークスを燃焼するため、大量のCO2(二酸化炭素)が発生します。高炉で1トンの鉄を作るのに2トンのCO2が発生するとされており、これが高炉の大きなデメリットとなっています。

また、高炉は焼結炉やコークス炉など付帯する設備の数も多く、全体として大規模な設備となります。そのため、新設には膨大なコストを要することも高炉のデメリットとなっています。

電炉の詳細

電気炉の外観
電気炉の外観(出所:株式会社ニッコーHP)

電炉は、大きな鍋のような形をした炉です。正式名称は「電気炉」で、略称として一般的に電炉と呼ばれています。

電炉では、電気エネルギーを使用して原料を溶解し、鉄を取り出します。電炉は高炉に比べて小型で、付帯する設備も少なく、コンパクトな作りとなっています。

電炉は、次のような特徴があります。

  • 原料に鉄スクラップを使用する
  • 還元剤を必要としない

このように、電炉で使用される鉄の原料は「鉄スクラップ」となっており、鉄スクラップから鉄を取り出します。

鉄スクラップとは使用済みになり、資源として回収された鉄くずのことです。鉄構造物であるビルや自動車などの解体で発生した鉄くずや、金属加工工場から廃出された鉄の切削くずなどがそれに当たります。

原料に鉄スクラップを使用する理由は、鉄は何度でも溶かし直すことができる金属だからです。役目を終えて不要になった鉄も、再度溶かせば何度でも新しい鉄に蘇らせることができます。

電炉では還元剤を必要としないため、高炉のような複雑な反応プロセスを要しません。電気エネルギーのみで鉄スクラップを溶かし、鉄を取り出します。

電炉で鉄が作られるプロセス

電炉で鉄を作るメリット・デメリット

電炉で鉄を作るメリットは、次の通りです。

  • いらなくなった鉄をリサイクルできる
  • CO2の発生量が少ない

電炉で使用する鉄の原料は、鉄スクラップです。一度は使用され、いらなくなった鉄をリサイクルすることにより新しい鉄を再生しているため、資源の循環を実現させています

また、コークスのような炭素系の還元剤を使用することなく鉄を再生できるため、CO2の発生量が抑えられます電炉で発生するCO2の量は、高炉の約1/5と言われています。

CO2の排出を抑えながら資源の循環を実現させている電炉は、まさしく地球環境に優しい製鉄法であると言えます。

一方で、電炉には次のデメリットがあります。

  • 生成される鉄に含まれる不純物の量が多い
  • 鉄を少量しか生産できない

鉄鋼材料の中には、高機能な材料特性を持たせるために、ニッケルや銅などの元素が含まれているものがあります。そのような鉄鋼材料が鉄スクラップとして使用されると、ニッケルや銅などの元素が不純物として鉄中に残留します。

そのため、電炉で作られた鉄は高炉で作られた鉄と比べて不純物が多くなっています。電炉で作られた鉄は高品位さが求められる鉄鋼材料には不向きとされており、主に形鋼や異形棒鋼などの建築・土木用鋼材などに活用されています。

また、高炉と比べると電炉による鉄の生産量は30%程度低く、鉄の生産量に劣ります。ただし、これは少量を多品種生産できるというメリットにもなり、一概にデメリットとは言えません。

2つの製鉄方式の比較

高炉と電炉についてまとめると、次のようになります。

製鉄方式高炉電炉
使用する原料鉄鉱石+コークス鉄スクラップ
鉄の生産量大量生産(〇)少量生産(△)
作られる鉄の品質純度が高い(〇)純度が低い(×)
CO2発生量大きい(×)少ない(〇)

このように、高炉と電炉にはそれぞれ一長一短のメリットがあります。



いま電炉が注目されている理由

いま国内では、高炉生産比率を下げ、電炉生産比率を高める動きが加速しています

高炉といえば製鉄の象徴的な存在であり、国内の鉄づくりを支えてきた主要設備です。

2000年頃には、国内で稼働している高炉は30基ほどありました。それが現在では、休止や廃止が進んで20基ほどにまで減少しています。

今後も高炉の休止や廃止が進むものとされていますが、その代わりに電炉の新設が進んでいます。

その理由は、脱炭素社会を実現させるためです。

世界的に喫緊の課題となっている温室効果ガスの削減に向け、いま多くの国がCO2排出量の抑制に取り組んでいます。日本でも政府が表明したカーボンニュートラル政策により、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにすることを目指しています。

そのような背景があって電炉生産比率を高める動きが加速しているわけですが、鉄鋼業におけるCO2排出量の現状を詳しく見ていきましょう。

鉄鋼業はCO2排出量が多い

日本の鉄鋼業のCO2排出状況

国内におけるCO2排出元の内訳を見ると、製造業では鉄鋼業がもっともCO2排出量が多く、全体の38%を占めています(2022年時点)

国内全体では、鉄鋼業からの排出量は総排出量の13%にあたります。鉄鋼業が地球環境にもたらしている影響がいかに大きいかがわかります。

高炉と電炉のCO2排出量比率を見ると、高炉からの排出量が90%以上を占めています。鉄鋼業から排出されるCO2のほとんどは、高炉からの排出となっているのです。

その理由は、ここまでに解説したように、高炉では製鉄時にコークスを使用するためです。コークスに含まれる炭素が鉄鉱石内の酸素をうばう反応でCO2が発生します。高炉で1トンの鉄を作るのに、2トンものCO2が排出されてしまいます。

また、高炉による鉄の生産比率が高いことも要因の1つとなっています。国内で生産されている鉄のうち、高炉による生産が約75%を占めています

このように、鉄鋼業は製造全体で見たときCO2排出量の比率がもっとも大きく、とりわけ高炉が大きな影響を与えています。

電炉はCO2の排出を抑えられる

鉄鋼業はCO2排出量が多く、特に高炉が大きな影響を与えていることを見てきました。

一方の電炉は、高炉に比べてCO2排出量が少ないという特徴をもっています。その排出量は、高炉の約1/5とされています。

CO2排出量が少ないという点だけでも電炉は魅力的ですが、地球資源の観点から見ても電炉は魅力があります。

高炉で使用される原料は自然由来の鉄鉱石であるのに対し、電炉の原料は鉄スクラップです。使用済みの鉄を使って新しい鉄を再生できる電炉は、日本が構築を目指す持続可能な循環型社会の流れにも見合っています。

このような理由により、いま国内では電炉生産比率を上げ、脱炭素化を進めようとしています。



それでも高炉を無くせない理由

ここまでご覧になられた方の中には「高炉を完全に無くし、すべて電炉にすればいいのでは?」と思われた方もいるでしょう。

しかし、高炉を完全に無くすことができない理由があります。その理由とは、次の通りです。

  • 電炉だけでは鉄需要を満たせないため
  • 高炉なしでは高機能鋼材を供給できないため

詳しく見ていきましょう。

電炉だけでは鉄需要を満たせない

将来の鉄需要について見てみると、今後、世界の鉄需要は拡大すると見られています

その理由は、世界人口の増加と途上国の経済発展により、インフラ整備にともなって鉄が必要となるためです。国際エネルギー機関(IEA)の分析によると、世界の鉄需要量は2024年の約18億トンから、2050年には約27億トンに達すると予想されています。

これに対し、電炉だけではこの鉄需要量をまかなうことができません。電炉生産に必要な鉄スクラップ量を確保できないためです。

電炉生産は、鉄スクラップが発生することにより成立します。そのため電炉で生産を続けるには、一定量の鉄スクラップが国内または世界から発生することが必要となります。

現状、鉄の需要量は鉄スクラップの発生量を上回っています。将来的には鉄スクラップの発生量は増加し続けるものの、鉄需要量のすべてを電炉でまかなうことは不可能とされています。(出所:2050年における世界の鉄鋼部門からのCO2排出量削減ポテンシャルの推計)

このような理由により、電炉だけでは鉄需要を満たせないため、高炉による生産も行いながら鉄を供給していく必要があります。

高炉なしでは高機能鋼材を供給できない

高い機能を有する鉄鋼材料のことを「高機能鋼材」と言います。

日本製の高機能鋼材は品質が高く、世界で高く評価されています。その代表的な製品が「ハイテン」や「電磁鋼板」などです。

  • ハイテン・・・主に自動車の車体構造に使われる鉄鋼材料。薄くても高い強度を誇り、自動車の軽量化と燃費の向上に貢献している。
  • 電磁鋼板・・・変圧器や電気自動車のモータなどに使われる鉄鋼材料。磁気特性に優れ、電気と磁気の変換を効率よく行える。

どちらの高機能鋼材も、製造に高い技術力が要求されます。日本はこれらの分野で、世界最高水準の技術力を誇ります。

その高い技術水準を実現しているのが、高炉です。電炉では材料中に多くの不純物が混ざってしまうため、電炉は高機能鋼材の製造に不向きとされています。

中国やインドなどの新興国の台頭により、日本勢がグローバル鉄鋼市場でシェアを獲得していくことは厳しいとされています。そのような中で、高機能鋼材は世界で勝ち残るための強力な武器となり得ます。そのために、今後も高炉で生産を続ける必要があります。

実現が期待される新しい製鉄技術

いま鉄鋼業界では脱炭素化の実現に向け、新しい製鉄技術の開発が進められています。

新しい製鉄技術では、高炉からのCO2排出量が大幅に削減されることが期待されています。その代表的な製鉄技術が「COURSE50(コース50)」と呼ばれる製鉄技術です。

COURSE50とは?

COURSE50は、高炉からのCO2排出量を実質ゼロとする製鉄技術です。2008年から高炉メーカー各社が共同で開発を進めています。

COURSE50は、具体的に次の成果を狙った製鉄技術です。

  • 鉄鉱石を水素で還元し、CO2の発生量を少なくする。(高炉水素還元技術)
  • 発生したCO2を分離・回収し、地中等に貯留する。(CCS)

この中で「高炉水素還元技術」は、要の製鉄技術となります。これは、コークスの代わりに水素を還元剤として使用し、鉄を生成するというものです。

コークスには炭素が含まれるため、コークスで鉄鉱石を還元すると副産物としてCO2が発生します。しかし水素で鉄鉱石を還元すると、発生する副産物は水であり、CO2が発生しません。

この技術が実現すると、鉄鋼業界から排出されるCO2が大幅に削減される可能性があります。ただし現状は多くの技術課題があるため、2030年頃までの実用化を目指して試験が進められている最中です。

おわりに

本記事では、高炉と電炉の違いについて解説してきました。

高炉と電炉の違いのみならず、鉄鋼業界がいまどのような状況にあり、どのような取り組みがなされているかをご覧いただきました。

鉄鋼業界のことをあまり知らない方が、この業界に少しでも興味をもっていただけたなら幸いです。

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