いきなりですが、「鉄」と「鋼」の違いが分かりますか?
「鉄」は私たちに馴染みの深い金属であり、その存在は十分に認識されています。一方の「鋼」は馴染みが少なく、その存在があまり認識されていません。実際、「鋼」と聞いてもそれがどのようなものであるかいまいち想像できないのではないでしょうか。
本記事では、鉄鋼メーカーで働いている筆者が「鉄と鋼の違い」について徹底解説しています。これを読むと、鉄と鋼の基本的な違いを明確に理解できるようになります。
また本記事では、鉄鋼材料としての「鉄」の分類についても詳しく解説しています。鉄鋼材料は大きく3つの材料に分類されます。特にものづくりに携わる人はここを理解しておくことが大切です。
本記事を読んで「鉄」と「鋼」の違い、そして工業材料としての「鉄」の分類を学びましょう。
「鉄」と「鋼」の基本的な違い
ではさっそく、「鉄」と「鋼」の基本的な違いについて見ていきましょう。
「鉄」とは
引用元:鉄|ウィキペディア
金属元素の一つ
鉄(てつ)は、元素記号「Fe」で表される元素の一つです(原子番号は26)。アルミニウム(Al)や銅(Cu)などと同じ金属元素の一つです。
常温で固体の性質を持ち、見た目は銀白色をしており、金属光沢があります。物理的性質としては、展延性(変形しやすい性質のこと)に富み、錆びやすく、電気や熱を通しやすい性質があります。
鉄は人間の体内にも鉄分として存在しています。鉄分は血液中で酸素を運ぶ役割を果たしており、人間にとって必要不可欠な栄養素となっています。
英語名は「Iron」
元素記号の「Fe」は、鉄のラテン語名である「Ferrum」から来ています。読み方は「フェラム」です。また、鉄の英語名は「Iron」で、読み方は「アイアン」です。
アイアンと聞くと、ゴルフをする人であればクラブのことを思い浮かべるのではないでしょうか。その昔、クラブのヘッドが鉄製だったことからアイアンと呼ばれるようになったそうです。
また、衣類のシワを伸ばす器具に「アイロン」がありますが、これも昔は鉄で出来ており、鉄の英語名である「Iron」を「アイロン」と読んだことが語源になっています。
「鉄」の旧字体は「鐵」
漢字としての「鉄」をひも解いてみると、旧字体では「鐵」と書きます。
「鉄」はその字体から「金を失う」ことを連想させるため、かつて鉄鋼メーカーは社名に「鉄」を使用するのを嫌がりました。そのため、日本を代表する鉄鋼メーカーである日本製鉄は、2019年まで社名に「鐵」を使用していました。東京製鐵のように、今でも社名に旧字体を使用している鉄鋼メーカーもあります。
「鉄」と名が付くものはたくさんある
「鉄」という漢字は、それに関連する「もの」の名前にもよく付けられています。
例えば「鉄道」、「鉄橋」、「鉄骨」、「鉄板」、「鉄筋」、「鉄アレイ」などです。なんとなくこれらは「鉄で出来ているもの」と想像出来るかと思います。また、これらは「重くて頑丈」というイメージをお持ちなのではないでしょうか。
こうやって見ると、意外にも私たちの周りには「鉄」に関連するものがたくさんあることが分かります。このように、「鉄」は私たちにとって馴染み深い存在で、私たちは「鉄」がどのようなものであるかをある程度認識できています。
「鋼」とは
では、一方の「鋼」はどうでしょうか。「鋼」と聞き、どのようなものが想像できますか?
漫画やアニメが好きな方であれば、「鋼の錬金術師」を思い浮かべるのではないかと思います。そうでない方は、「針金」や「刀」などの金属像を思い浮かべたのではないでしょうか。
言葉としては「鋼のメンタル」などのように使われることがあり、「鋼は強靭で硬いものの象徴」のように思われている側面があります。しかし、鋼が一体何者なのかはよく知らないのではないでしょうか。
そう、多くの方は鋼を「何かの金属」だと捉えているものの、具体的にそれがどのようなものであるかを認識していません。実は先ほど「鉄鋼」という言葉を使用しましたが、「鋼」は「鉄」とどのような関係があるのか見ていきましょう。
「はがね」または「こう」と読む
まず読み方についてですが、鋼は「はがね」と読みます。「こう」とも読むこともできますが、それ単体の場合は「はがね」と読みます。「鉄鋼(てっこう)」のように、「~鋼」となっている場合は「~こう」と読みます。
鉄の合金のこと
さて、ここが一番のポイントです。
鋼は鉄の合金のことです。つまり、鉄と何かの元素が組み合わさって出来たものを鋼と言います。鉄を主成分とした金属のことと捉えるとよいでしょう。
なんとなく鋼のイメージが沸いてきましたね。
なお、先ほどから述べてきた「鉄鋼」は「鉄と鋼を総称した呼び名のこと」です。鉄と鋼は非常に密接な関係にあるのです。
英語名は「Steel」
鋼の英語名は「Steel」で、読み方は「スチール」です。
「スチール」という言葉をどこかで聞いたことがありませんか?
そう、「スチール缶」です。缶コーヒーの容器でお馴染みのスチール缶ですが、これはまさしく「鋼」で出来ているものです。コーラなどが入っているアルミ缶と違い、少し硬いのが特徴です。
他にスチールと名が付くものとしては、ホームセンターなどでよく売られている「スチールラック」があります。メタリックな見た目の棚でお馴染みのスチールラックですが、これも鋼で出来ています。頑丈なため、重いものを載せても壊れにくいのが特徴です。こうやって見ると、意外にも鋼で出来ているものは身近にあることが分かると思います。
ここまで鋼について見てきましたが、鋼のことを少し理解できてきたのではないでしょうか。実際、世の中には鋼で出来ているものがどのくらいあるのか気になりませんか?
それについては次に解説していきます。
多くのものが「鋼」で出来ている
世の中にある多くの鉄製品、鉄構造物は「鋼」で出来ています。
鉄の解説のところで述べた「鉄橋」、「鉄骨」、「鉄板」などもそうです。いわゆる鉄製と言われるものは、鋼で出来ているものが多いです。紙を切る際に使用する「はさみ」、料理の際に使用する「包丁」、食事の際に使用する「スプーン、フォーク」もほとんどのものが鋼で出来ています。自動車のボディ、シャーシ、マフラーなども鋼で出来ており、「自動車は鋼の塊」とも言えます。
このように、私たちの生活にも身近な多くのものが「鋼」で出来ています。しかし、我々はこれらを「鉄で出来たもの」と言うことが多く、「鋼で出来たもの」と言うことはありません。鉄がもとであることに変わりはないため、別におかしくはないのです。しかし、間違いなくこれらは「鋼で出来ている」という事実があります。
さて、鉄はその存在がよく認識されているものの、鋼はその存在があまり認識されていないことを述べてきました。しかし、実態は鋼で出来たものが多く、それは身近にもたくさんあり、私たちの生活を支えていることがお分かりいただけたのではないか思います。
鉄鋼材料としての「鉄」の分類
ここからは、「鉄鋼材料としての鉄」について詳しく見ていきます。特にものづくりに携わる人に理解いただきたい内容となっています。
ここまで見てきた「鉄」と「鋼」は材料学上、明確な定義があります。その他に「鋳鉄」と呼ばれるものも定義されています。それらはさらに細かく分類されています。
ものづくりに携わる人はこれらの材料を扱う場面が多く、それぞれの材料の違いを正確に理解しておくことが大切です。
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鉄鋼材料とは
鉄鋼材料とは、鉄を主成分とし、ものを作るときのもととなる材料のことです。
ここまでに登場した「スチール缶」や「スチールラック」は、鉄鋼材料を加工して作られています。ビルや鉄橋などの鉄構造物も鉄鋼材料を用いて作られており、鉄鋼材料は工業において欠かせない存在となっています。
鉄鋼材料は大きく、3つの材質に分類されます。詳しく見ていきましょう。
鉄鋼材料は「純鉄」「鋼」「鋳鉄」に分けられる
鉄鋼材料は「鉄を主成分とした材料のこと」と解説しました。つまり、鉄以外の成分が含まれています。鉄鋼材料は含まれる成分によって「純鉄、鋼、鋳鉄」の3材質に分けられます。
一般的に次のように定義されています。
純鉄(じゅんてつ):
不純物が極めて少なく、炭素含有率が0.02%以下の鉄。比較的軟らかく、展延性に富む。一般的に「鉄」と言うと、これを指す。実用性が無く、工業ではあまり使用されない。
鋼(はがね):
炭素含有率が0.02~2%の鉄。通常、シリコン、マンガン、リン、硫黄などの成分も含む。工業において重要な鉄鋼材料であり、多くの機械や構造物などに使用されている。
鋳鉄(ちゅうてつ):
炭素含有率が2%を超える鉄。「鋳物(いもの)」とも呼ばれる。水道管やマンホールの蓋などに使用されている。
これを見てお分かりいただけるように、鉄鋼材料の分類は「炭素含有率」によって決まっています。
なぜ炭素含有率によって決まるのかと言うと、それは、炭素が材料としてのに重要な役割を果たしているからです。
「鋼」と「鋳鉄」の細かい分類
「鋼」と「鋳鉄」については、成分などによってさらに細かく分類することができます。少しだけ解説しておきます。
- 鋼の分類
鋼は合金元素の有無によって大きく「炭素鋼」と「合金鋼」に分類されます。前者は最も一般的な鋼で、合金元素は含まれていません。
- 鋳鉄の分類
鋳鉄は炭素の状態によって「ねずみ鋳鉄」、「白鋳鉄」、「まだら鋳鉄」、「可鍛鋳鉄」などに分類されます。
おわりに
「鉄」と「鋼」の違いが分かりましたか?
これまで「鋼の存在」をあまり認識してこなかった方も、これを機に認識してもらえるようになれば、鋼について解説した甲斐があります。
ものづくりに携わる人向けに「鉄鋼材料の材質」についても解説してきましたが、実際に鉄鋼材料を扱うときにはより広範囲に鉄鋼材料の知識を身に付けておく必要があります。「鉄鋼材料の学習塾」では他にも鉄鋼材料の基礎を分かりやすく解説していますので、鉄鋼材料の学習にぜひ本サイトをお役立てください。