鋼に含まれる元素は?鋼種ごとの違いは?鋼の化学成分を詳しく解説!

鉄鋼材料の性質はこれで決まる!鋼に含まれる成分 鉄鋼材料の解説
鉄鋼材料の解説
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金属材料の一種である鋼(はがね)は、機械、構造物、自動車、家電など、多くの製品づくりに欠かせない材料です。

鋼は、硬くて強度があります。種類によっては、靭性(じんせい)や耐食性(たいしょく)などの優れた材料特性を持つ鋼もあります。

鋼がこれらの材料特性を持つ上でもっとも重要なのが「化学成分」です。

鋼には一体、どのような元素が含まれているのでしょうか。本記事では、鋼の化学成分について詳しく解説しています。

この記事を読んで分かること
  • 化学成分とは?
  • 鋼に含まれる主要5元素、合金元素、不純物元素
  • 各鋼種の化学成分

この記事は、現役の材料エンジニアが書いています!

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鋼(はがね)とは?

鋼(はがね)とは、「鉄(てつ)を主成分とした合金(ごうきん)」のことです。

鉄と言えば、誰もが「硬くて強い金属材料」を想像するかと思います。しかし、鉄自体はあまり強度がないため、単体で使用されることはほとんどありません。

その鉄を他の金属や非金属と混ぜ合わせて「合金(ごうきん)」の状態にすると、強い材料に変化します。「硬さ」や「強度」が生まれ、変形しづらくなり、大きな負荷や衝撃に耐えられるようになります。これが「」です。

鋼は、機械や構造物などの製作にもっとも適した金属材料であり、多くの場所で使用されています。

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化学成分とは?

化学成分とは、材料が持つ化学的な組成のことです。

前述したように、鋼は「鉄を主成分とした合金」です。その鋼がどのような成分で構成されているかを明らかにしたものが化学成分です。

鋼にはたくさんの種類があり、それぞれ化学成分が異なります。その化学成分の違いが、材料特性に違いをもたらします。

鋼の場合、化学成分は「元素」で表されます。実際にどの元素がどのくらい入っているかは「ミルシート」で確認することができます。

ミルシートとは、材料の製造元が発行する「材料証明書」のことです。一般的に次のことが記載されています。

  • 化学成分
  • 機械的性質(強度や硬さなど)
  • 熱処理状態
  • 寸法
  • 各種材料検査の結果
ミルシートの例(出所:Stella Mechanics HP)

鋼の化学成分

鋼の化学成分について見ていきましょう。

鋼の中には、さまざまな元素が含まれています。その中には「主要5元素」と呼ばれ、鋼の基本的な性質を決める重要な元素があります。

その他にも鋼の性質を向上させる「合金元素」や、鋼に悪影響を及ぼす「不純物元素」があります。詳しく見ていきましょう。

主要5元素

主要5元素とは、次の5元素のことです。([ ]内の数値は含有量を示しています。)

  • 炭素(C) [0.02~2.1%]
  • ケイ素(Si) [通常、0.5%以下]
  • マンガン(Mn) [通常、1.6%以下]
  • リン(P) [通常、0.04%以下]
  • 硫黄(S) [通常、0.04%以下]

のちほど紹介する「炭素鋼(たんそこう)」は、化学成分がこれらの元素だけで構成されている鋼です。

各元素が鋼に与える影響について見ていきましょう。

炭素は、鋼の硬さを決めるもっとも重要な元素

炭素は、鋼を硬くする働きがあります。炭素の含有量が大きいほど鋼が硬くなり、強度も高くなります。

ただし、鋼は強度が高いほど「延性(えんせい)」や「靭性(じんせい)」が低下し、もろい材料になります。延性とは、材料の伸びやすさのことです。また靭性とは、材料が外力によって変形し始めてから破壊するまでに耐える力のことです。

つまり、鋼は強度が高すぎてもよくないため、炭素含有量によって強度が調整されています。なお、鋼の炭素含有量は0.02~2.1%程度と決められています。

ケイ素とマンガンは、鋼の靭性を向上させる元素

ケイ素とマンガンは、鋼を作るときに脱酸材として用いられる元素です。

脱酸材とは、鋼中の酸素を除去するための材料です。鋼は製造中に多くの酸素を溶け込むため、この脱酸材を投入することで酸素を除去します。

ケイ素とマンガンは鋼の靭性を向上させる働きがあるため、通常、ケイ素は0.5%以下、マンガンは1.6%以下になるように含有量が調整されます。

リンと硫黄は、鋼をもろくさせる有害元素

リンは鋼中で偏析(へんせき)しやすく、含有量が大きいと鋼の延性や靭性を低下させる有害元素です。偏析とは、その元素や化合物が一定の箇所に濃く集まる現象のことです。

硫黄もリンと同様、含有量が大きいと、鋼の靭性を低下させる有害元素です。これらの元素は通常、含有量が0.04%以下になるように調整されています。ただし、硫黄は削りやすさを向上させるために意図的に添加される場合もあります。

なぜこのような元素が鋼に含有しているかと言うと、鋼の原料である「鉄鉱石」などに含まれているためです。これらの元素は鋼を作る過程で除去されますが、完全に除去されずにわずかに残ってしまいます。

このように、主要5元素は鋼の性質に大きく関わっています。そのため、要求される性質に応じて含有量が調整されています。

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合金元素

合金元素とは、「鋼の性質を向上させるために添加されている元素」のことです。

通常、前述した主要5元素以外のものを指します。

鋼に合金元素が入ると、主要5元素だけでは得られない性質を得ることができます。例えばクロム(Cr)モリブデン(Mo)が添加された鋼は「焼入れ性(やきいれせい)」が向上し、強靭な鋼になります。

「焼入れ」とは、熱した鋼を急冷し、鋼を硬くする操作のことです。また「焼入れ性」とは、急冷したときに材料中心部まで冷える程度のことです。

一般的に、鋼はサイズが大きくなるほど焼入れ性が悪くなります。焼入れ性が悪いと、中心部までよく冷えないため十分な硬さが出ません。CrやMoは焼入れ性を向上させる効果があるため、鋼のサイズが大きくても中心部までよく冷え、強靭な鋼になります。

このように鋼に特殊な性質を付与する合金元素は、他にもあります。

  • 硬さを向上させる元素・・・Cr、Mo、V、W、Nb、Nなど
  • 焼入れ性を向上させる元素・・・Ni、Cr、Mo、Nb、Bなど
  • 耐食性を向上させる元素・・・Ni、Cr、Mo、Cuなど
  • 耐熱性を向上させる元素・・・Ni、Cr、Mo、Coなど

のちほど紹介する「合金鋼(ごうきんこう)」は、これらの合金元素が配合された鋼です。合金元素の働きによって、材料に高い機能性を生み出しています。

不純物元素

不純物元素とは、主に以下の元素のことを指します。

  • 銅(Cu)
  • スズ(Sn)
  • ヒ素(As)
  • 鉛(Pb)

これらの元素は「トランプエレメント」と呼ばれ、「鋼の圧延中に割れをもたらす」、「冷間加工性を低下させる」などの悪影響をもたらします。特に「電炉法(でんろほう)」と呼ばれる方法で製造された鉄は、トランプエレメントを多く含有している場合があります。

電炉法とは?

鉄を製造するさい、原料に「鉄スクラップ」を使用し、電気炉で溶かして製造する方法のことです。鉄スクラップとは、古くなった建築ビルや自動車などの解体によって発生した鉄の廃棄物のことです。

鉄は何度でも溶かし直してリサイクルできるため、電炉法では鉄スクラップが活用されています。しかし、リサイクルを繰り返すうちに鉄にトランプエレメントが蓄積することがあります。

このようにトランプエレメントは有害元素であるため、特定の用途に使用される鉄鋼材料においては含有量が厳しく管理されています。

しかし、鋼に特性を持たせる目的で意図的にこれらの元素を含有させる場合もあります。「快削鋼(かいさくこう)」はその代表例です。削りやすさを向上させるために、「硫黄」や「鉛」などが添加されています。

各鋼種の化学成分

鋼は、化学成分によって次の3鋼種に大別することができます。

  • 炭素鋼・・・基本的な鋼
  • 合金鋼・・・合金元素を含有した鋼
  • ステンレス鋼・・・クロム(Cr)を10.5%以上含有した鋼

以下では、実用的な鋼種を化学成分とあわせて紹介します。

炭素鋼

炭素鋼は、もっとも基本的な鋼です。主要5元素以外の元素をあまり含有していません。

代表的な炭素鋼を挙げると、「SPCC」、「S45C」、「SK95」などがあります。

① SPCC

SPCCは、「冷間圧延鋼板(れいかん・あつえん・こうはん)」の一種です。

炭素量が低いためやわらかく、成形して使用したいときなどに向いています。機械や家電などのカバーに使用されることが多く、重宝されています。

鋼種CMnPS
SPCC0.15以下1.00以下0.100以下0.035以下
単位 %|JIS G 3141

② S45C

S45Cは、「機械構造用炭素鋼鋼材(きかいこうぞうよう・たんそこう・こうざい)」の一種です。

加工性がよく、熱処理することで強度を高くできる特徴があります。シャフト、ボルト、ナットなどの機械部品に使用されています。

鋼種CSiMnPSNiCrCuNi+Cr
S45C0.42~0.480.15~0.350.60~0.900.030以下0.035以下0.20以下0.20以下0.30以下0.35以下
単位 %|JIS G 4051

③ SK95

SK95は、「炭素工具鋼鋼材(たんそこうぐこう・こうざい)」の一種です。

炭素量が大きいため、硬くて耐摩耗性に優れることが特徴です。本鋼種は工具用に開発されたものですが、ばね、ぜんまい、座金、スペーサーなどにも使用されています。

鋼種CSiMnPS
SK950.90~1.000.10~0.350.10~0.500.030以下0.030以下
単位 %|JIS G 4401

合金鋼

合金鋼は、合金元素を1種類以上を含有した鋼です。合金元素によって特殊な性質を持つ材料となっています。

代表的な合金鋼を挙げると、「SCM440」や「SNCM439」などがあります。

① SCM440

SCM440は「機械構造用合金鋼鋼材(きかいこうぞうよう・ごうきんこう・こうざい)」の一種です。クロム(Cr)とモリブデン(Mo)を含有しているため、通称「クロモリ」と呼ばれます。

高い強度と靭性を有するため、強度が求められる構造材に適しています。シャフト、ボルト、継手など、多くの機械部品に使用されています。

鋼種CSiMnPSNiCrMoCu
SCM4400.38~0.430.15~0.350.60~0.900.030以下0.030以下0.25以下0.90~1.200.15~0.300.30以下
単位 %|JIS G 4053

② SNCM439

SNCM439は、先ほどのSCM440と同じ「機械構造用合金鋼鋼材(きかいこうぞうよう・ごうきんこう・こうざい)」の一種です。

本鋼種は、SCM440の成分系にニッケル(Ni)を追加しています。これにより焼入れ性を高めているため、材料の奥深くまで強靭な性質を持つことが特徴です。大型の軸類や歯車などに使用されています。

鋼種CSiMnPSNiCrMoCu
SNCM4390.36~0.430.15~0.350.60~0.900.030以下0.030以下1.60~2.000.60~1.000.15~0.300.30以下
単位 %|JIS G 4053

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ステンレス鋼

ステンレス鋼は、クロム(Cr)を10.5%以上含有する鋼です。合金鋼の一種で、高い耐食性を持つことが特徴です。

代表的なステンレス鋼を挙げると、「SUS430」、「SUS304」、「SUS403」などがあります。

① SUS430

SUS430は、「フェライト系ステンレス鋼」の一種です。クロム(Cr)を18%程度含有することから、「18Crステンレス鋼」とも呼ばれます。

本鋼種は他のステンレス鋼に比べて耐食性が劣りますが、安価で入手しやすいことが特徴です。主に厨房機器や家庭用器具の水回りなどに使用されます。

鋼種CSiMnPSCr
SUS4300.12以下0.75以下1.00以下0.040以下0.030以下16.00~18.00
単位 %|JIS G 4303

② SUS304

SUS304は、「オーステナイト系ステンレス鋼」の一種です。クロム(Cr)を18%程度、ニッケル(Ni)を8%程度含有することから、「18-8ステンレス鋼」とも呼ばれます。

ニッケルを含有しているため耐食性に優れ、なおかつ強度、加工性、耐熱性にも優れるため、オールマイティな用途に対応しています。建築用資材、自動車部品、家電部品、化学設備、食品設備など、幅広い用途に使用されています。

なお、スプーンの裏に「18-8」と刻印されているものは、間違いなくこの鋼種が使用されています。

鋼種CSiMnPSNiCrMo
SUS3040.08以下1.00以下2.00以下0.045以下0.030以下8.00~10.5018.00~20.00
単位 %|JIS G 4303

③ SUS403

SUS403は、「マルテンサイト系ステンレス鋼」の一種です。クロム(Cr)を13%程度含有するため、「13Crステンレス鋼」とも呼ばれます。

マルテンサイトとは、焼入れによって作られる硬い金属の相のことです。本鋼種は耐食性を有するとともに硬さがあるため、強度が必要な用途に使用されます。主に包丁やナイフなどに使用されます。

鋼種CSiMnPSCr
SUS4030.15以下0.50以下1.00以下0.040以下0.030以下11.50~13.00
単位 %|JIS G 4303

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おわりに

本記事では、鋼の化学成分について解説してきました。

鉄鋼材料の性質は「化学成分」が大きく影響しているため、鉄鋼材料を扱う場合には化学成分をよく理解している必要があります。

鋼の化学成分をもっと詳しく知りたい!」という方には、次の本を読むことをオススメします。ぜひ手に取って読んでみてください。

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