【誰でもわかる】高炉と電炉の違いを解説!【製鉄方法】

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日本は、鉄づくりが盛んな国です。

鉄を作ることを製鉄と言いますが、いま地球環境に優しい製鉄炉として“電炉”が注目されています

また、従来主流であった“高炉”を“電炉”に置き換える動きも加速しています

そもそも、高炉とは何か、電炉とは何か、本記事ではそれらについて分かりやすく解説しています。

本記事で分かること
  • 高炉と電炉の違い
  • 高炉が電炉に置き換わっている理由
  • 高炉を無くせない理由

日本における鉄の生産量

グラフ

高炉と電炉について見ていく前に、まずは日本国内における鉄の生産量について見てみましょう。これを見ると、日本の鉄づくりの規模が分かります。

日本鉄鋼連盟によると、2023年の国内の粗鋼生産量は約8700万トンです。

粗鋼とは、作られたばかりで、加工されていない状態の鉄のことです。

生産された鉄の一番の需要先は、土木・建築分野です。住宅やビル、高速道路、橋などを作るための材料として鉄が使用されます。

次に多い需要先は、製造分野です。自動車、船舶、電気機器、加工機械、建設機械などを作るための材料として鉄が使用されます。特に、自動車は製造分野の中で最も鉄の消費が多い分野です

また、完成品も含めた鉄全体で見ると、3269万トンの鉄が海外に輸出されています。

世界に目を向けてみると、粗鋼生産量が最も大きい国は中国です

中国国家統計局によると、中国における2023年の粗鋼生産量は約10億2000万トンとなっています。日本の10倍以上の生産量を誇ります。

これは中国経済が急速に発展しており、建設用の鉄の需要が旺盛なためですが、一方で鉄の過剰生産を行っているとも指摘されています。

さらに見てみると、インドは中国に次いで粗鋼生産量が多く、約1億4000万トンとなっています。その下に日本が続き、日本は世界で3位の粗鋼生産量を誇っています。4位はアメリカで、日本は粗鋼生産量でアメリカを上回っています。

経済発展が著しい中国は別として、日本は粗鋼生産量で世界上位にあり、鉄の輸出も積極的に行っており、「日本は鉄大国」であることがお分かりいただけるかと思います。 

鉄を作るときは「製鉄炉」が必要

では、鉄がどのようにして作られているかを見ていきましょう。

鉄を作ることを「製鉄」と言います。

鉄が作られている所を「製鉄所」と言います。

そして製鉄所を持ち、製鉄所で生産した鉄を世の中に供給している会社を「鉄鋼メーカー」と言います。つまり、鉄は鉄鋼メーカーが作っています。

製鉄の流れを簡単に解説します。

<製鉄の流れ>

①鉄の原料を溶かす

②溶けた鉄の成分を調整する

③溶けた鉄を固めて形を整える 

完成

おおまかに言うと、このようにして鉄が作られています。最初に鉄の原料となるものを溶かすわけですが、このときに使用されるものが「製鉄炉」です。

製鉄炉とは、金属や鉱石を高温の熱で溶解させるためのものです。

この製鉄炉には、大きく「高炉」と「電炉」の2種類があります。鉄鋼メーカーはこのどちらかの製鉄炉を保有しており、高炉または電炉を用いて製鉄を行っています。(一つの製鉄プロセスで両方が用いられる場合もあります。)

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高炉とは

高炉の外観
引用元:wikipedia

高炉とは、鉄の原料となる鉄鉱石を溶かして鉄を作るための炉のことです。

高炉はとっくりのような形をしており、天に向かって高くそびえ立っているため、高炉と呼ばれます。製鉄所のシンボル的存在となっています。

また、鉄の原料となる鉄鉱石は酸化鉄を主成分とする鉱石で、鉄と酸素が強く結合しています。

鉄を作るには、この鉄鉱石から酸素を分離させる必要があります。

そこで鉄鉱石と一緒にコークス(石炭を蒸し焼きにしたもの)を高炉内に入れ、熱風を送り込むことでこれらを化学反応させ、純粋な鉄を取り出しています。このとき鉄は溶けた状態にあり、約1600℃もの温度になります。高炉から取り出された鉄は、銑鉄(せんてつ)と呼ばれます。

<高炉内で起こる化学反応>

高炉内では、大きく次の2つの化学反応が生じて鉄が取り出される

①コークスと熱風(空気)の化学反応 → 高温ガスが発生する
反応式:2C(炭素)+O2(酸素)→2CO(一酸化炭素)+反応熱

②鉄鉱石と高温ガスの化学反応(還元反応) → 鉄が生まれる
反応式:Fe2O3(鉄鉱石)+3CO(一酸化炭素)→2Fe(鉄)+3CO2(二酸化炭素) 

高炉では、このようなプロセスによって鉄が作られています。一見すると単純なプロセスのように見えますが、温度や原料などの条件がシビアに調整され、繊細な製鉄が行われています。

電炉とは

電気炉
電炉の外観
引用元:株式会社ニッコー

電炉とは、鉄の原料となる鉄スクラップを溶かして鉄を作るための炉のことです。

電炉の正式名称は「電気炉」ですが、略称である電炉が一般的な呼び名になっています。

また、鉄スクラップとは、廃車になった自動車や老朽化した建物の解体などによって発生した「鉄くず」のことです。金属加工工場などから廃棄される鉄の切り粉などもこれに含まれます。

高炉がとっくりの形をしているのに対し、電炉は鍋の形をしています。そして上部にカーボン製の太い電極棒が突き刺さった構造になっています。

この電炉の中に鉄スクラップを入れ、電気を流した電極棒を接触させると、アークと呼ばれる強い光と熱が発生します。この熱により、鉄スクラップを溶かします。

鉄スクラップには、不純物が多く含まれます。そのため、溶けた鉄スクラップは酸化精錬や脱酸などの精錬処理が行われ、不純物が除去されます。このようにして鉄が作られます。

電炉は高炉のように還元材を必要とせず、熱で溶かすだけであるため、比較的単純な製鉄炉と言えます。

高炉と電炉の比率

日本鉄源協会によると、2022年の日本国内の粗鋼生産量のうち、高炉の比率が約73%、電炉の比率が約27%となっています。

高炉の比率が圧倒的に高く、日本は高炉への依存度が大きいことが分かります。

なぜいま電炉が注目されているのか

いま、鉄鋼業では電炉が注目されています。また、高炉を廃止し、電炉に置き換える動きが加速しています。

その理由は、大きく2つありますので、詳しく解説していきます。

電炉はCO2排出量が少ない

高炉と電炉でCO2排出量を比較すると、高炉での排出量が圧倒的に大きいことが分かっています。高炉では、鉄を1トン作るのに、2トンのCO2が排出されるとも言われています。

その理由は、高炉で使用されるコークスにあります。コークスは石炭を蒸し焼きにしたものなので、炭素の塊のようなものです。高炉ではコークス内の炭素が鉄鉱石に含まれる酸素を奪うことできれいな鉄を取り出しますが、その代償としてCO2を大量に発生させることになります。

一方の電炉は、高炉ほど多くのCO2を排出しません。電炉のCO2排出量は、高炉の約1/5と言われています。

その理由は、コークスなどの炭素源を使用しない点と、熱源に電気を使用する点にあります。電炉での製鉄法は還元材を必要とせず、電気で発生する熱だけで鉄を溶かすという比較的単純な製鉄プロセスであるため、CO2排出量が低めとなっています。

産業全体で見ると、鉄鋼業は特にCO2排出量が多い産業となっています。

産業別のCO2排出量の比率では、鉄鋼業が約4割を占めています。日本はカーボンニュートラル政策により、2050年までにCO2排出量ゼロを目指しているため、鉄鋼業は脱炭素化が強く求められています。そのような背景もあり、CO2排出量が少ない電炉がいま注目されています。

鉄を再利用できる

鉄を作るときに鉄を再利用できる点も、電炉が注目されている理由の一つとなっています。

鉄を作るときには、鉄の原料が必要です。高炉における鉄の原料は鉄鉱石ですが、これは自然にしか存在しない天然資源です。

一方、電炉における鉄の原料は、不要になったり、解体されたりして世の中に廃棄された鉄です。つまり、一度溶かされて製品化したものがもう1度溶かされ、再び別の製品となっています

鉄は溶かし直せば、何度でも新しい鉄製品に蘇えらせることができます。電炉はこの利点を生かし、鉄のリサイクルを行って資源の循環を行っています。持続可能な社会の形成が叫ばれる中、資源を有効活用している点で電炉は優位な製鉄炉と言えます。

それでも高炉が必要なわけ

ここまでの解説で、電炉は「脱炭素化」や「持続可能な社会の形成」に優位な製鉄炉であることがお分かりいただけたかと思います。

それでも、高炉を無くすことができない理由があります。それについて、詳しく解説していきます。

電炉では品質の高い鉄を作れない

一般的に、電炉で作られる鉄の品質は、高炉で作られる鉄の品質に劣ります。その理由は、鉄スクラップに多くの不純物元素が含まれているためです。銅(どう)、錫(すず)、ニッケル、クロム、モリブデン、亜鉛(あえん)、鉛(なまり)、ヒ素、アンチモン、ビスマスなどがその例です。

基本的にこれらの不純物元素は精錬処理によって取り除かれますが、一部の元素は取り除くことができないため、そのまま残ってしまいます。それらの元素は「トランプエレメント」と言われ、特に銅や錫は鉄を脆化させる有害な元素として知られています。

そのため、自動車の重要部品などには、基本的に高炉で作られた品質のよい鉄が使用されています。特に高炉で作られる「ハイテン」や「電磁鋼板」と呼ばれる鉄製品は、他国からも需要がある日本の強みとなっています。

しかし、近年は技術開発によって電炉でも品質のよい鉄が作られるようになってきました。そのため、高炉で作られた鉄と電炉で作られた鉄の品質差は今後解消される可能性があります。

将来的にはカーボンゼロの製鉄が可能

品質の高い鉄を大量に生産できる」というメリットが高炉にある以上、日本の鉄鋼業は高炉に頼らざるを得ません。そうなると、高炉のネックであるCO2排出量を電炉並み、またはそれ以下に抑える必要があります。

そこで現在、研究機関と高炉メーカー各社は共同で「高炉で発生するCO2をゼロにする革新的な技術の開発」に取り組んでいます。その代表的な技術が、「水素還元製鉄技術」です。

水素還元製鉄技術は、コークスの代わりに「水素」を鉄鉱石の還元材として使用し、製鉄を行う技術です。水素は燃焼させてもCO2を発生しないため、コークスを全て水素に置き換えることができれば、高炉で発生するCO2を理論上ゼロにすることができます。しかしその障壁は高く、模索が続けられています。2050年までの実用化を目指し、実証が進められている最中です。

おわりに

鉄づくりの要である「高炉」と「電炉」について解説してきました。

鉄鋼業は成熟産業だとも言われますが、CO2削減や環境問題など、その時代に起こっている問題と向き合いながら今なお成長し続けています。本記事を読み、そのことを感じてもらえたなら幸いです。

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