鉄鋼材料がどのようにして作られているかを知っていますか?
なんとなく鉄を溶かして作っているイメージはあっても、実際にどのようなプロセスを経て作られているかはよく知らないのではないでしょうか。
鉄鋼材料は作り方によって特性が変わるため、作り方を知っていると、材料調達や材料選定などの場面で役立ちます。
そこで本記事では、鉄鋼材料がどのようにして作られているかを解説しています。
本記事を読むと、鉄の代表的な作り方である「高炉法」と「電炉法」の違いや、鉄鋼材料ができるまでの流れを知ることができます。
鉄の作り方には大きく「高炉法」と「電炉法」がある
鉄鋼材料は、製鉄所(せいてつしょ)または製鋼所(せいこうしょ)と呼ばれる工場で作られています。これらの工場を持つ代表的な鉄鋼メーカーとしては、日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所などがあります。
鉄鋼材料の作り方をざっくりと説明すると、まず、鉄の原料を溶かし、鉄を取り出すところから始まります。取り出された鉄は不純物が取り除かれたのち、必要な成分に調整されて鋼(はがね)となります。そして、圧力を加えて必要な形に整えられます。さらに、必要に応じて熱処理などの特殊処理が施され、鉄鋼材料ができ上がります。
これが、おおまかな鉄鋼材料の作り方です。
最初に述べたように、鉄鋼材料を作るときにはまず、原料から鉄を取り出すところからスタートします。この方法には、大きく分けて「高炉法(こうろほう)」と「電炉法(でんろほう)」があります。
これらの違いについて、詳しく解説していきます。
高炉法
高炉法は、高炉と呼ばれる溶鉱炉の中に鉄鉱石とコークスを入れて燃焼させ、これらが起こす化学反応によって鉄鉱石から鉄を取り出す方法です。
溶鉱炉とは、鉱石を溶かすための炉のことです。その見た目は大きくて迫力があり、高くそびえ立つ姿から高炉と呼ばれ、製鉄所のシンボルとなっています。高炉を持つ鉄鋼メーカーは「高炉メーカー」と呼ばれており、日本には数社しかありません。
高炉法には、次のメリットがあります。
このように、高品質な鉄を大量生産できることが高炉法のメリットとなっています。一方で、高炉法には次のようなデメリットがあります。
高炉法にはこのようなデメリットがあることから、近年、高炉法は縮小傾向にあります。
電炉法
電炉法は、電気炉を使用して鉄スクラップを溶かし、鉄を取り出す方法です。
電気炉とは、電気で発生させた熱で金属を溶かすための炉のことです。また鉄スクラップとは、古くなった建物、車両、船舶などの解体によって発生した鉄の廃材や、金属加工工場から廃棄された鉄の切り粉などのことです。電炉法では、これらの鉄屑を鉄の原料として利用します。
電炉法には次のメリットがあります。
電炉法は電気の力で原料を溶かすため、操業中のCO2排出量が少ないことが特徴です。一方で、次のデメリットがあります。
電炉法は原料に鉄屑を使用するため、作られる鉄の純度は高炉法に劣ります。しかし、CO2排出量が少ない上に、不要になった鉄をリサイクルできる点から地球環境に優しく、今注目されています。電気炉を持つメーカーは電炉メーカーと呼ばれおり、日本には数多くの電炉メーカーがあります。
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鉄鋼材料ができるまでの流れ
ここでは、鉄鋼材料がどのようにして作られていくか、具体的な流れを解説していきます。
次の図は、鉄鋼材料の基本的な製造プロセスを高炉法と電炉法に分けて図解したものです。
高炉法と電炉法を比較すると、最初の工程(鉄を取り出す工程)が異なりますが、そのあとは共通の工程をたどります。つまり、鉄の取り出し方が異なるだけで、それ以降の工程で行われる処理は基本的に同じです。また「★」は、求められる材質に応じて実施されるプロセスです。「熱処理」、「酸洗」、「めっき処理」などがあります。
各工程の詳細を以下で解説します。
製銑-製鋼(高炉法)
ここでは、高炉法で行われる「製銑工程」から「製鋼工程」までの詳細を解説しています。
製銑(せいせん)は、高炉を使用して鉄鉱石から鉄を取り出すプロセスです。
鉄鉱石は鉄の原料ですが、鉄と酸素が強固に結合した「酸化鉄」の状態になっています。鉄鉱石に占める鉄の比率としては、60%程度です。その鉄鉱石を「コークス(石炭を蒸し焼きにしたもの)」と一緒に高炉に投入して燃焼させます。すると、次に示す「鉄の還元反応」が起こり、鉄鉱石から酸素が分離して鉄だけを取り出すことができます。
高炉内で起こる鉄の還元反応:
コークス内の炭素が鉄鉱石の酸素をうばう反応が生じ、鉄が取り出される。
反応式:鉄鉱石(Fe2O3)+コークス(C)→ 鉄(Fe)+ 二酸化炭素(CO2)
※実際には複雑な反応が起きていますが、ここでは分かりやすいように簡略的な反応式を示しています。
このようにして製銑工程で取り出された鉄は、「銑鉄(せんてつ)」と呼ばれます。言うまでもなく、銑鉄はドロドロに溶けた真っ赤な状態の鉄です。温度は、約1600℃あります。製銑工程が完了すると、続いて製鋼工程に移ります。
製鋼(せいこう)は、製銑工程で作られた銑鉄から不純物を取り除き、さらに成分を調整して鋼を作るプロセスです。
製銑工程で作られた銑鉄には、約4%程度の炭素(C)が不純物として混ざっています。炭素以外にもけい素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、水素(H)、窒素(N)などの不純物が混ざっています。銑鉄をこのまま冷やし固めても、出来上がる材料は非常にもろい材料となります。そこで、「精錬(せいれん)」と呼ばれる処理を行って不純物を取り除いていきます。
精錬処理にはいくつかの種類があります。
溶銑(ようせん)予備処理:
精錬の前処理として行うもの。トーピードカーと呼ばれる鍋の中でけい素、リン、硫黄などを除去する。
一次精錬:
不純物の除去を目的として行うもの。転炉(てんろ)と呼ばれる鍋の中で銑鉄に酸素を吹き込み、酸素との化学反応によって炭素、けい素、マンガンなどの不純物を除去する。
二次精錬:
成分の微調整を目的として行うもの。取鍋(とりべ)と呼ばれる鍋の中で行う炉外精錬処理や、真空槽で銑鉄中の有害なガスを取り除く目的で行う真空脱ガス処理などがある。
銑鉄は、これらの精錬処理によって徹底的に不純物が取り除かれます。ただし、不純物が取り除かれた銑鉄はまだ鉄鋼材料として使うことができません。強靭な鉄鋼材料にするために合金元素を添加し、成分を調整して「鋼」を作ります。
このようにして、鉄鋼材料のもととなる鋼が作られます。製鋼プロセスを終えた鋼は溶けた状態にあるため、溶鋼(ようこう)と呼ばれます。溶鋼は、のちほど解説する鋳造工程に移ります。
溶解-製鋼(電炉法)
ここでは、電炉法で行われる「溶解工程」から「製鋼工程」までの詳細を解説していきます。
溶解は、電気炉を使用して鉄スクラップを溶かし、鉄を取り出すプロセスです。
電気炉は鍋型の形をしており、黒鉛でできた太い電極が炉の上部に突き刺さった構造になっています。この中に鉄スクラップを入れ、電気を流した電極を接触させると、アーク放電と呼ばれる強い光と熱が発生します。その熱で鉄スクラップを溶かし、鉄を取り出します。溶解工程が完了すると、続いて製鋼工程に移ります。
製鋼は、溶解工程で作られた鉄から不純物を取り除き、さらに成分を調整して鋼を作るプロセスです。
鉄スクラップを溶解して得られた鉄には、不純物が多く含まれています。そこで高炉法のときと同じように、精錬処理を行って余分な不純物を取り除いていきます。
精錬処理は電気炉内で行われ、必要に応じて炉外精錬処理や真空脱ガス処理などの二次精錬が行われます。精錬処理が完了して鉄から不純物が取り除かれると、続いて合金元素を添加して鋼を作ります。
このようにして不純物が取り除かれ、所定の成分を有する溶鋼が作られます。作られた溶鋼は、次の鋳造工程に移ります。
鋳造
鋳造(ちゅうぞう)は、製鋼工程で作られた溶鋼を型に流して凝固(ぎょうこ)させるプロセスです。
製鋼工程で作られた鋼は、最終的に必要な形に成形されて完成となります。鋳造工程は、鋼を所定の形に成形するための前処理として必要な工程になります。
鋳造方法は、大きく「連続鋳造法」と「造塊法(ぞうかいほう)」があります。成形したい形状に応じて使い分けられます。
連続鋳造法
連続鋳造法は、溶鋼を型に流し込み、鋼片(こうへん)と呼ばれる板状の鋼を連続的に作る方法です。
作られた鋼片は所定のサイズに切断され、圧延工程に移ります。なお、切断された鋼片は形状やサイズによって「スラブ」、「ブルーム」、「ビレット」などに分類されます。
造塊法
造塊法は、溶鋼を型に流し込み、インゴット(鋼塊)と呼ばれる鋼のかたまりを作る方法です。
作られたインゴットは、そのあと鍛造プロセスに移ります。
なお、鋳造法には「砂型鋳造法」と呼ばれるものもあります。
砂型鋳造法は昔ながらの鋳造法で、砂で作られた型に溶鋼を流し込む方法です。鉄鋼製品の少量生産に適しています。冷やし固められた材料は鋳物(いもの)とよばれ、成形せずそのまま使用することが多いです。
圧延
ここまでの流れを復習すると、鉄鋼材料づくりは原料から鉄を取り出すところからスタートし、取り出された鉄は不純物が取り除かれ、必要な成分に調整され、凝固されて鉄鋼材料の原型となるものが作られてきました。このような手間がかけられた鋼がいよいよ最終形状に成形加工されるプロセスが、この圧延(あつえん)工程です。
圧延工程は、鋳造工程で作られた鋼片に圧力を加え、薄く延ばしていくプロセスです。
圧延工程では、鋼片をロールとロールの間に連続的に送り込み、圧力を加えることで鋼片を薄く延ばしていきます。うどんの麺を作るときのように、練った小麦粉を麺棒で伸ばていくのと理屈は同じです。鋼を圧延することで中身が緻密な材料となり、強靭な材料に仕上がります。
圧延の基本は、薄く延ばした鋼の板(鋼板)を作ることですが、圧延の回数を増やすことでシート状に成形したり、ロールの形状を変えれば断面が丸やHなどの形に成形することが可能です。
なお、鋼片を加熱した状態で圧延する方法を「熱間(ねっかん)圧延」と言います。それとは逆に、常温のまま圧延する方法を「冷間(れいかん)圧延」と言い、鉄鋼材料に付与する性能に合わせて使い分けられます。
鍛造
圧延とは別の方法で鋼を成形加工するプロセスが、この鍛造(たんぞう)工程です。
鍛造は、鋳造工程で作られた塊鋼をプレスやハンマーなどでたたいて立体的な形に成形するプロセスです。
テレビなどで、刀鍛冶職人が熱した刀をハンマーで叩いている場面をご覧になったことはないですか?それと同じことが鍛造工程で行われます。鋼を何度もたたくことによって、鋼が鍛えられて強くなります。たたいて鍛えることを「鍛錬(たんれん)する」と言いますが、鍛錬という言葉はここから来ています。
製鉄所では、大型のプレスを用いて鋼塊を鍛錬しています。圧延も鍛造もよく似た成形加工プロセスですが、圧延は材料を2次元的に変形させるのに対し、鍛造は3次元的に変形させる違いがあります。そのため、圧延では作れない形状の材料を作るさいなどに鍛造が用いられます。
特殊なプロセス
鉄鋼材料は要求される性能に応じて、「熱処理」、「浸炭処理」、「窒化処理」、「めっき処理」などの特殊なプロセスが施されます。
熱処理(ねつしょり)
熱処理は、鉄鋼材料に加熱と冷却のサイクルを加え、特性を付与するプロセスです。
鉄や鋼は温度によって相(そう)や結晶構造が変化し、これによって材料の機械的性質や化学的性質も変化します。熱処理はこの性質を利用したもので、熱処理によって鉄鋼材料の硬さを向上させたり、逆に軟らかくして加工性を向上させたりすることが可能です。
鉄鋼が溶ける温度は約1600℃ですが、熱処理は主に300~1100℃の温度域で行われます。代表的な熱処理は「焼き入れ」です。鉄鋼材料を900℃などの高温に加熱・保持したのち、水や油などの冷却媒体に漬け込むことで強靭な鉄鋼材料に生まれ変わります。
その他にも「焼きならし」、「焼きなまし」、「焼き戻し」などの熱処理があり、必要に応じてこれらを組み合わせて鉄鋼材料の性質を改善させます。
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浸炭(しんたん)・窒化(ちっか)処理
浸炭処理と窒化処理は、硬化材となるガスなどを満たした炉の中で鉄鋼材料を熱処理し、鉄鋼材料の表面を硬くさせるプロセスです。
浸炭処理では、炭素を含むガス(二酸化炭素、水素、メタンなど)の雰囲気下で鉄鋼材料を加熱し、鉄鋼材料の表面から炭素を取り入れ(固溶させ)ます。これによって鉄と炭素が結合し、表面だけが硬くなります。
窒化処理は浸炭処理と手順が同じですが、窒素ガスが用いられます。同じように表面の硬度を上げることができます。
どちらの手法も鋼の表面が焼き入れされた状態になり、硬くなります。これによって材料の「摩耗に対する強さ(耐摩耗性)」が向上します。本プロセスは、自動車の摺動部などに用いられる材料に適用されます。
めっき処理
めっき処理は、鉄鋼材料の表面を保護するなどの目的で金属の薄膜を被覆させるプロセスです。
めっき処理には電気めっきや溶融めっきなどの手法があり、目的に応じて使い分けられます。めっき処理を行うと鉄鋼材料の耐食性が向上し、腐食やサビから守ることができます。材料の見た目を美しくしたり、電気的特性を付与する目的で行われる場合もあります。
大迫力の製造現場を見る
鉄鋼材料の製造プロセスを解説しましたが、なかなかイメージがわかない方もいるかと思います。
YouTubeに製鉄の現場を紹介している動画がありましたので、ご覧いただき、参考にしていただければと思います。
・高炉法による製鉄の様子がわかる動画(日本製鉄・北日本製鉄所・室蘭地区)
・電炉法による製鉄の様子がわかる動画(共栄製鋼・枚方事業所)
おわりに
鉄鋼材料の作り方について解説してきましたが、お分かりいただけましたか?
世の中にある多くのものが鉄鋼材料で作られているため、鉄鋼材料は「超重要」な材料です。そのため、機械や構造物などの設計や製作に携わる技術者は鉄鋼材料の知識が必須と言えます。
筆者も鉄鋼メーカーに入り、鉄鋼材料について猛勉強しました。鉄鋼材料の知識を習得するには、本を読んで基礎的なことから理解することが大切です。筆者のおススメの本を2つ紹介しますので、ぜひ手にとってみてください。
なお、鉄鋼ネットでは、ものづくり従事者が身に付けるべき「鉄鋼材料の知識」を多数情報発信しています。以下に記事の一覧を確認できるリンクを貼っておきますので、ぜひご覧ください。