「鉄」と「鋼」の違いを知っていますか?
「鉄」は私たちにとって馴染みの深い金属であり、誰もが知る金属ですよね。一方の「鋼」については、あまりよく知らないのではないでしょうか。
実は「鋼」は世の中でたくさん使われており、社会に必要不可欠な金属です。
鋼がどのような金属なのか、なぜ社会に必要不可欠なのか、本記事で詳しく解説しています。鉄鋼材料を学びたい方にも役立つ内容となっています!
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「鉄」とは?
まずはじめに、「鉄」とは一体どのような金属のことなのか、おさらいしていきましょう。
金属元素の一つ
鉄は元素記号「Fe」で表される、周期表に記載されている元素の一つです。
金(Au)や銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)などと同じ金属の一種で、見た目は銀白色で、金属光沢がある物質です。地球上には、アルミニウムに次いでその量が存在します。
機械的な性質としては硬さがありますが、展延性があるため、力を加えたときに延びて拡がります。
また、強磁性があるため、磁石とくっつくことができます。その他に、電気や熱を通しやすい性質もあります。
鉄は大気中で酸化しやすく、酸化すると黒っぽくなる性質があります。そのため、古来では鉄は「黒い金属」を意味する「くろがね」と呼ばれていました。ちなみに金は「こがね」、銀は「しろがね」、銅は「あかがね」と呼ばれていました。
鉄は人間にとって「必要不可欠な栄養素」である点も特筆すべき点です。鉄は体内で赤血球の材料となり、血液中で全身に酸素を運ぶ重要な働きをしています。
以下は、鉄の基本的な性質です。
原子番号 | 26 | 密度 | 7.874 g/cm3(室温) |
元素記号 | Fe | 電気抵抗率 | 96.1 nΩ・m |
分類 | 遷移金属 | 熱伝導率 | 80.4 W/(m・K) |
融点 | 1,538℃ | 熱膨張率 | 11.8 μm/(m・K) |
沸点 | 2,862℃ | ヤング率 | 211 GPa |
英語名は「Iron」
鉄の英語名は「Iron」で、読み方は「アイアン」です。
ゴルフをする人であれば、「アイアン」と聞くとクラブのことを思い浮かべるのではないでしょうか。クラブのヘッドはまさしく鉄製であるため、アイアンと呼ばれています。
また、衣類のシワを伸ばす道具に「アイロン」がありますが、これもかつては鉄で作れていたことが名前の由来となっています。その昔、「Iron」のことを「アイロン」と読んだため、そのような名称になっています。
以上のように、「鉄=Iron(アイアン)」であることをぜひとも覚えてください。
ちなみに、鉄の元素記号である「Fe」は、鉄のラテン語名である「Ferrum」から来ています。読み方は「フェラム」です。
「鉄」の旧字体は「鐵」
漢字としての「鉄」をひも解いてみると、旧字体では「鐵」と書きます。
かつて日本では、鉄を表す漢字として「鐵」が使用されていました。しかし「鐵」は書くのに時間がかかるため、昭和17年に国語審議会によって新字の「鉄」が示され、それ以降「鉄」が使用されるようになりました。
一方、「鉄」はその字体から「金を失う」ことを連想させてしまいます。そのため、昔から鉄を作るメーカーは社名に「鉄」を使用するのを嫌いました。
そのため、日本を代表する鉄鋼メーカーである日本製鉄は、2019年まで社名に「鐵」を使用していました。今でも東京製鐵のように、社名に旧字体を使用している鉄鋼メーカーもあります。
「鉄」が付くものはたくさんある
世の中には、名前に「鉄」の漢字が入っているものがたくさんあります。
例えば「鉄道」や「鉄板」などです。これらはまぎれもなく鉄でできており、それがどのようなものであるかを容易に想像できるかと思います。
その他にも「鉄器」、「鉄瓶」、「鉄砲」、「鉄塔」、「鉄橋」、「鉄アレイ」など、「鉄」と名が付くものはたくさんあります。どれも「硬くて重いもの」というイメージがあるのではないでしょうか。
こうやって見ると、意外にも私たちの周辺には「鉄」に関するものがたくさんあることが分かります。
このように「鉄」は私たちにとって馴染みの深い存在であり、私たちは「鉄」がどのようなものであるかをある程度認識しています。
「鋼」とは?
ここまで、鉄がどのような金属であるかを解説してきました。
ここからは、「鋼」がどのようなものであるかを見ていきましょう。
「はがね」または「こう」と読む
まず読み方についてですが、鋼は「はがね」または「こう」と読みます。
それ単体では「はがね」と読み、他の漢字と組み合わさるときは「こう」と読みます。例えば「鉄鋼」は「てっこう」と読み、「鋼材」は「こうざい」と読みます。
ところで、あなたは「鋼」に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか。
「鋼」と聞いたとき、漫画が好きな方は「鋼の錬金術師」を思い浮かべるでしょう。この漫画の中では「機械鎧(オートメイル)」と呼ばれる鋼製の義手が登場し、鋼が強くてタフな素材であることが読み取れます。
日常会話においては、鋼は「鋼のメンタル」などのように使われることがあります。この場合、「何ごとにも動じないタフなメンタル」であることを意味します。
このように、鋼はタフなものの象徴として扱われることがあり、実体がタフであることは間違いなさそうです。鋼の正体とは、一体何なのでしょうか。
鉄合金のこと
ここがもっとも重要なポイントとなります。
鋼とは、鉄を強くするためにさまざまな処理が施された「鉄合金」のことです。
合金とは、「2種類以上の金属が合わさってできたもの」のことです。つまり鋼は、鉄を主成分とし、それ以外の成分が入っている金属です。
鋼には主要成分として、炭素(C)が微量に含まれています。炭素が含まれている理由は、炭素を入れることで鉄の強度が増すためです。その他にシリコン(Si)やマンガン(Mn)なども微量に含まれており、これらの成分が鉄の強さを引き出しています。
また、鋼は熱間加工と呼ばれる処理によって強化されています。熱間加工の方法には圧延や鍛造などがありますが、どちらも高温に加熱した鋼を器具でつぶして変形させ、鋼を強化しています。
さらに鋼は、焼入れと呼ばれる熱処理が施され、強靭性を高めています。これにより、大きな荷重や衝撃が加わってもビクともしない強靭な鋼となります。
このように、鋼はもとの素材が鉄ですが、鉄を何倍にも強くするための処理が施されています。これが、鋼の正体です。
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英語名は「Steel」
鋼の英語名は「Steel」で、読み方は「スチール」です。
「スチール」という言葉をどこかで聞いたことがありませんか?
そう、「スチール缶」です。缶コーヒーの容器でお馴染みのスチール缶ですが、これはまさしく「鋼」で出来ています。アルミ缶と違い、少し硬いことが特徴です。
他にスチールと名が付くものに「スチールラック」があります。どこの家庭にも1つはあるであろうスチールラックはまさしく鋼製で、重いものを載せられる頑丈さがあることが特徴です。
このように、鋼製のものは意外にも私たちの身近にあることがわかります。
鉄と鋼の違いは?
結局のところ、鉄と鋼の違いとは何なのでしょうか?
それは、純粋な鉄かどうかです。
材料工学では、鉄は純粋な鉄、つまり「純鉄」のことを言います。混ざりっ気がなく、元素記号「Fe」で表される唯一の存在です。
一方の鋼は「鉄を主成分とした合金」であるため、純粋な鉄ではありません。炭素(C)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)などいくつもの成分が含まれており、混ざりっ気があります。
ちなみに材料工学では、鉄の種類は炭素の含有量によって明確に区別されています。また、材質にも大きな違いがあります。
鉄の種類 | 炭素の含有量 | 材質 |
---|---|---|
鉄(純鉄) | 0~0.02% | やわらかくて強度が低い |
鋼 | 0.02~2.1% | 強度があり、粘り強い |
鋳鉄 | 2.1~6.7% | 硬くてもろい |
このように、鉄そのものはやわらかく、あまり強度がありません。一方、鋼は強度と粘り強さがあり、衝撃や破壊に対して強さを見せます。
なお、鋼は成分によってさらに「炭素鋼」と「合金鋼」に区別され、目的に応じて使い分けられています。炭素鋼と合金鋼については以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
ほとんどの鉄製品は「鋼製」
驚くことなかれ、「鉄製」と言われている鉄製品や鉄構造物のほとんどは、「鋼製」です。
鉄瓶、鉄板、鉄道など、名前からして鉄製だと思われるこれらのものは、すべて「鋼製」です。むしろ、鉄製(つまり純鉄製)のものはこの世にほとんどありません。
そこには、鋼が強靭な材質であることに理由があります。
鋼製のものを挙げると、他に以下のものがあります。
- 釘、金づち
- スプーン、フォーク、ナイフ
- 包丁、フライパン
- 自動車の車体
- ガードレール
- 建築資材(鉄骨材、鉄板など)
- 鉄橋、鉄塔
これらはほんの一例ですが、食事のさいによく手にするスプーンやフォークが鋼製であることは知っていたでしょうか。正確には「ステンレス鋼」と呼ばれる特殊な鋼が使用されています。
また自動車は、ドア、パネル、骨格部など、大部分が鋼でできています。重量の約70%を鋼が占めており、自動車はまさに「鋼のかたまり」とも言える乗り物です。
このように、世の中には鋼製のものがありふれています。鋼があることで街には鉄道が走り、高層ビルが立ち並び、私たちは快適に過ごすことができています。
そう、私たちが日ごろ見かける「鉄」は正確には「鋼」なのです。そのため、鉄を見かけたときは「鋼」と言うべきなのです。
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おわりに
本記事では、「鉄」と「鋼」の違いについて解説してきました。
鋼は現代社会を築き上げてきた立役者であり、昔も今もものづくりに欠かせない存在です。
もし、ものづくりの世界に興味があったり、これからものづくりの道に進もうと思われている方は、鉄鋼材料の知識が強い武器となります。世の中には鉄鋼にかかわる仕事がたくさんあるからです。
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