鉄鋼などの金属材料は構造用材料として優れた材料ですが、大きな欠点があります。
それは、腐食を起こすということです。
腐食が起こると材料は劣化し、強度低下をもたらします。機械装置や構造物などでそれが起こると破壊に至り、大きな事故につながる可能性があります。
そこで重要になってくる材料の性質こそが“耐食性”です。
ものづくりを行うとき、材料の耐食性について理解していると腐食について対策を講じることができます。
本記事では、エンジニアが知っておきたい金属材料の腐食と耐食性について分かりやすく解説しています。
- 腐食のメカニズム
- 材料の耐食性に関与する不動態皮膜とは?
- 各種金属材料の耐食性
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腐食の基礎知識
まず初めに、腐食とはどのような現象のことなのかを押さえておきましょう。
腐食とは?
腐食は主に金属材料において起こる材料の劣化現象であり、材料の表面が水溶液と電気化学的に反応し、溶けて無くなる現象です。
室外に放置していた鉄に赤茶色の錆(サビ)が発生していた、という経験をお持ちでないでしょうか。サビも、腐食の形態の一種です。
腐食した箇所は変色してボロボロになり、簡単に剥がれ落ちます。腐食の程度がひどい場合には減肉したり、穴が空いたりして部材の強度が低下します。それが構造物の一部で発生した場合には、構造物の安全性が損なわれてしまいます。

金属材料の腐食は特定の空間で起こるものと思われがちですが、特定の場所に限らず、自然下でも起こりえる現象です。また、時間をかけてゆっくりと進行していきます。
腐食は長期スパンで材料にダメージを与えるため、かなり年月が経ってから問題が深刻化することもあります。
日本では、高度経済成長期に多くの橋梁やトンネルが建設されました。今、これらが建設から50年もの年月を経とうとしているため、金属部材の腐食によって部品落下や倒壊などの発生が危惧されています。
このように、材料の腐食は大きな社会問題に発展する可能性があるため、見過ごすことはできません。エンジニアならば、腐食という現象を理解しておくことが大切です。
腐食のメカニズム
下の図は、鉄の一般的な腐食メカニズムを表した図です。鉄の腐食は、表面に「水」と「酸素(溶存酸素)」があるときに起こります。自然界で起こる鉄の腐食パターンは、ほとんどがこれです。

鉄の腐食は、外部との電子の受け渡しをともなった電気化学的反応によって起こります。すなわち、鉄の表面で電池のような作用が働いた結果、鉄が溶けて腐食が起こります。
電位が高い鉄側では、鉄(Fe)がイオン化(Fe2+となる)し、水中に溶け出します。このとき、鉄は電子(2e–)を放出します。
電位が低い水側では水(H2O)と溶存酸素(1/2O2)が反応し、さらに鉄が放出した電子を受け取って水酸化物イオン(2OH–)が生じます。
水酸化イオンは鉄イオンと反応し、水酸化第一鉄(Fe(OH)2)を生成します。水酸化第一鉄は不安定なため酸化して酸化第二鉄(2Fe(OH)3)となり、さらに酸化して酸化第二鉄(Fe2O3・3H2O)となります。これがいわゆる「サビ」と呼ばれるものです。
鉄の腐食では、これらの反応が同時に起こります。その反応式は、次式によって表すことができます。
- Fe → Fe2+ + 2e–(アノード反応)
- H2O + 1/2O2 + 2e– → 2OH–(カソード反応)
- Fe2+ + 2OH– → Fe(OH)2 → 2Fe(OH)3 → Fe2O3・3H2O(サビの生成)
ここで説明した鉄の腐食メカニズムは、水(中性水溶液)との反応によるものです。酸性水溶液や海水でも、同様のメカニズムによって腐食が起こります。
特に、塩酸や希硫酸などの酸性水溶液は、鉄を著しく腐食させます。そのような薬品類が鉄に付着すると、たちまち腐食してしまいます。
なお、材料の腐食速度は水溶液のpH、溶存酸素量、溶解物質、温度、流速などによって決まります。水溶液のpHが低いほど、もしくは水溶液中の溶存酸素量が多いほど腐食が早まるイメージを持っておくとよいでしょう。
ちなみに「水中と海水中では、海水中のほうが鉄がサビやすい」というイメージをお持ちでないですか?
これは間違いではありません。水中よりも海水中のほうが腐食が早い理由は、導電率の高さにあります。海水には塩化ナトリウム(NaCl)が多く含まれているため導電率が上がり、水中よりも腐食速度が早まります。ただし、海水と大気(酸素)が混ざり合う海洋上では、もっと早く腐食します。
腐食の種類
腐食の形態にはいくつかの種類があります。ここでは代表的な腐食の形態について解説します。
① 全面腐食
全面腐食は、その名の通り、金属の表面全体にわたって均一に起こる腐食です。
全面腐食は、基本的な腐食の形態として知られています。大気下で発生する金属のサビのほとんどが、この全面腐食によるものです。塩酸や希硫酸などの弱い酸性水溶液に晒されたときにも全面腐食が起こります。
② 孔食
全面腐食が金属の表面全体で起こる腐食であるのに対し、孔食は、局部的に起こる腐食です。腐食した箇所は虫食いのようなくぼみが形成されます。最悪の場合、材料が貫通することがあります。
孔食は、表面に不動態皮膜と呼ばれる酸化皮膜を持つ金属(アルミ合金やステンレス鋼など)で起こる腐食です。不動態皮膜は材料を腐食から守る機能がありますが、海水などに含まれる塩化物イオン(Cl–)などのハロゲンイオンは不動態皮膜を破壊する性質を持っています。つまり、孔食はハロゲンイオンに晒されたときに発生します。
③ すき間腐食
すき間腐食は、ナットとボルトのすき間やフランジ接合部など、構造的なすき間部で発生する腐食です。孔食と同じように、不動態皮膜を持つ金属(アルミ合金やステンレス鋼など)で起こる腐食です。
すき間腐食は孔食と同じく局部腐食の一種ですが、相手がたとの接触部の比較的広い範囲で腐食が起こります。その主たる原因はハロゲンイオンであり、海水などが入り込んだときにすき間のハロゲンイオン濃度が上昇するために起こります。
④ 微生物腐食
微生物腐食は、金属表面に付着した微生物の代謝作用によって起こる腐食です。微生物の代謝によって腐食性の物質が生成されたり、金属表面の電位が異常に上昇したりすることで腐食が起こります。
スプリンクラーの配管など、通常内部液が停滞している場合に微生物腐食が起こりやすくなります。
⑤ 異種金属接触腐食
異種金属接触腐食は、2つの異なる金属を電解質中で接触させたときに起こる腐食です。ガルバニック腐食とも呼ばれます。
2つの金属を接触させたとき、それぞれの金属の自然電位の違いにより、イオン化傾向が高いほうの金属が腐食します。一方、イオン化傾向が低い金属は腐食が抑えられます。亜鉛めっき鋼板はこのメカニズムを利用して腐食を防止している鋼板であり、自動車のパネルや建材などに広く活用されています。
耐食性の基礎知識
腐食について理解されたところで、ここからは金属材料の耐食性について解説していきます。
耐食性とは?
耐食性(たいしょくせい)とは、その材料が持っている腐食に対する抵抗力のことです。
金属材料は、どの材料も一様に腐食を起こすわけではありません。材料の種類によって腐食のしやすさが異なります。その程度を表しているものが耐食性です。
例えば、鉄と炭素の合金である「炭素鋼」はどうでしょうか。炭素鋼はもっとも代表的な構造用材料として知られていますが、基本的に耐食性が低い材料です。大気中で容易にサビます。
しかし、鋼にクロムを10.5%以上添加して作られている「ステンレス鋼」は耐食性が高く、大気中にずっと放置していてもサビることがありません。どちらも原料が同じ鉄なのに、組成によって耐食性が異なるのです。
軽金属の中では、「アルミニウム」が大気中で優れた耐食性を発揮します。しかし、「マグネシウム」は化学的に不安定なために簡単に腐食を起こします。
このように、金属材料は種類や成分によって耐食性の違いがあります。材料の耐食性は、不動態皮膜(ふどうたいひまく)と呼ばれる表面構造が関係しています。
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不動態皮膜とは?
不動態皮膜とは、金属の表面を覆っている薄い酸化皮膜のことです。
金や銀などのもともと化学的に安定な金属を除き、ステンレス鋼やアルミニウムなどの耐食性が高いとされる金属材料は、この不動態皮膜によって表面が覆われています。
不動態皮膜は非常に緻密な構造で、ステンレス鋼では厚さが1~3nm(ナノメートル)程度と極薄です。不動態皮膜は、金属中の元素が外部の酸素や水と反応することで形成されます。ステンレス鋼の場合はクロムがその働きをし、クロム酸化膜を形成します。

このような不動態皮膜が外部環境から金属を保護し、水や酸素などの侵入をバリアしています。これにより、金属材料は耐食性を発揮します。炭素鋼はこの不動態皮膜を形成する能力がないため、簡単にサビてしまいます。
不動態皮膜にはさらに驚くべき機能があり、自己修復機能があります。すなわち、破壊されても再び不動態化し、耐食性を維持しようとします。
そのため、ステンレス鋼の表面をドリルでガリガリ削っていっても、瞬時に不動態皮膜が作られるためにサビることはありません。
耐孔食指数とは?
かなり専門的な話になりますが、「耐孔食指数(たいこうしょくしすう)」について知っていると耐食性に対する理解をより深めることができるため、解説しておきます。
耐孔食指数とは、孔食の発生に対する抵抗力を表す指数のことです。英語表記は「Pitting Resistance Equivalent(ピッティング・レジスタンス・エクイバレント)」となるため、それぞれの頭文字を取って「PRE」とも呼ばれます。
耐孔食指数は、主にステンレス鋼の塩化物イオン(Cl–)に対する耐食性を評価するときに使われています。
ステンレス鋼は耐食性が高い金属材料ですが、海水などに含まれる塩化物イオンに晒されると「孔食」や「すき間腐食」を起こすことがあります。しかし、耐孔食指数が高いステンレス鋼であばこれらの腐食が起こりにくくなります。
耐孔食指数は、ステンレス鋼中のクロム(Cr)含有率とモリブデン(Mo)含有率により、次の式によって求められます。
耐孔食指数(PRE)=Cr(%)+ 3.3Mo(%)
なお、この式は文献によって異なる場合があります。ただし、基本的にクロム濃度とモリブデン濃度が高いステンレス鋼ほど、耐孔食指数が高いことに変わりありません。
市場では、耐孔食指数が40以上の非常に高いステンレス鋼が販売されています。これらは「スーパーステンレス鋼」と呼ばれ、耐海水用材料として海洋構造物などに使用されています。
各種金属材料の耐食性
ここまでご覧になってお分かりいただけたかと思いますが、金属材料が腐食環境に晒されるときは、適切な耐食性を持った材料が使用される必要があります。
そうすることで材料を腐食から守り、機械装置や構造物などの寿命を延ばすことができます。そのため、どのような金属材料が耐食性を持っているかを知っておくことが大切です。
ここでは、各種金属材料の耐食性について解説します。
炭素鋼
炭素鋼は、もっとも一般的な鉄鋼材料です。適度な強度と延性を持ち、加工しやすいことから、建築物などの構造用材料として広く利用されています。鋼種名では「S45C」、「SS400」、「SPCC」などが有名です。
炭素鋼は耐食性が低く、大気中で容易にサビます。工場内で一晩放置していただけでもサビが発生することがあります。腐食の形態としては、「全面腐食」である場合がほとんどです。
当然、酸性水溶液や海水に対しても耐性がないため、それらに晒される環境でそのまま使用することはNGです。もし腐食環境で使用する場合は、適切な防食処理が必要となります。日常の保管においても、防錆剤を塗布するなどの対策が必要です。
合金鋼
合金鋼は、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)などの合金元素が添加されている鋼です。強靭性、耐摩耗性、耐熱性などの特性が優れていることから、シャフトや歯車などの機械構造用部品として広く用いられています。鋼種名では「SCM440」、「SNCM439」、「SKD11」などが有名です。
合金鋼は炭素鋼と同様、耐食性が低い部類に入ります。大気中では炭素鋼と同レベルでサビが発生する他、酸性水溶液や海水に対しても容易に腐食します。
ただし、クロムやモリブデンなどの含有量が多い鋼種は、耐食性がやや高くなります。それでも、腐食環境で使用するときの防食処理は必要となります。
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ステンレス鋼
ステンレス鋼は、クロムを10.5%以上添加している鋼です。構造用材料の中では、もっとも代表的な高耐食性材料として知られています。鋼種名では「SUS304」や「SUS316」などが有名です。
ステンレス鋼は一般的な鉄鋼材料と変わらない強度を持ちながら、大気中や水中では高い耐食性を示します。材料に耐食性が求められる場面では第一に選択されるほど、腐食に対する信頼性が高いです。厨房機器、飲料水貯蔵タンク、建材、化学プラント機器、医療用器具など、さまざまな製品に使用されています。
ただし、ステンレス鋼は鋼種によって耐食性の程度が異なります。マルテンサイト系とオーステナイト系を比較した場合は、オーステナイト系のほうが耐食性が高いなどの特性があります。
また、ステンレス鋼は、塩化物イオン(Cl–)による孔食の発生に注意が必要です。塩化物イオンは海水中に多く含まれるため、海水がかかる場所や海塩粒子が飛来する場所での使用には注意しなければなりません。ステンレス鋼を海洋環境で使用する場合は、耐孔食指数(PRE)が高いスーパーステンレス鋼が選択されます。
また、高温で保持したときなどに発生する「粒界腐食」や、応力がかかっているときに発生する「応力腐食割れ」にも注意が必要です。
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耐候性鋼
耐候性鋼(たいこうせいこう)は、炭素鋼の約2倍以上の大気腐食抵抗性を示す鋼です。1930年代、アメリカのUSスチールによって開発され、コルテン(COR-TEN)鋼という商品名で販売されました。
大気中で長期間放置された場合、炭素鋼は10年以上経っても腐食が止まることなく、どんどん腐食量が増えていきます。一方の耐候性鋼は、10年以上経過すると表面に安定なさび層が形成され、その後は腐食が鈍化します。
その理由は、耐候性鋼に銅(Cu)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)などの大気腐食抑制元素が少量添加されているためです。大気中で使用するあいだに、表面に保護性のある安定さび層を形成していきます。
耐候性鋼を使用すると、サビの発生に対する補修や維持管理コストを抑えられるメリットがあるため、橋梁やビルの外装などに使用されています。
アルミニウム(アルミ合金)
アルミニウム(アルミ合金)は、一般的に耐食性が高いとされる金属材料です。
表面が0.2~0.3μm(マイクロメートル)程度の厚さの不動態皮膜に覆われているため、大気や水に対して優れた耐食性を示します。
一方で塩素に対して弱く、塩害環境での使用には適していません。また酸性溶液やアルカリ性溶液に対しても腐食に反応します。
アルミニウムの耐食性を高めたい場合は、アルマイト処理が施工されます。アルマイト処理は「陽極酸化皮膜処理」のことで、表面の酸化皮膜を電気的に厚く成長させる表面処理です。
アルミニウムは鉄の1/3の重さでありながら、比較的強度のある金属材料です。軽量化を目的とした製品、例えば建材や航空機などに使用されています。
ニッケル(ニッケル合金)
ニッケル(ニッケル合金)は、高い耐食性と耐熱性を持つ金属材料です。
ニッケル合金はアルカリ溶液、ハロゲンガス、塩酸のような非酸化性酸に強いという特徴があります。特に「Alloy C-276」や「Alloy 22」に代表されるNi-Cr-Mo系のニッケル合金は、ステンレス鋼をはるかにしのぐ耐食性を持ちます。大部分の環境で優れた耐食性を示します。
またニッケル合金は高温特性にも優れており、高温中での酸化や腐食を起こしづらいという特徴があります。高温疲労強度や高温クリープ強度にも優れていることから、優れた耐熱性材料としての一面も持っています。そのため、火力発電所のボイラや航空機のジェットエンジンなどに使用されています。
チタン(チタン合金)
チタン(チタン合金)は、軽量かつ非常に高い耐食性を持つ金属材料です。
質量はステンレス鋼の半分程度で、海水に対する耐食性はステンレス鋼よりも高いという特徴があります。それでいて強度は、ステンレス鋼とそん色ありません。ただし、塩酸や硫酸には弱いため注意が必要です。
チタンはステンレス鋼と比べると高価なため、用途が限られています。ステンレス鋼でもサビてしまうような厳しい環境や、軽さが必要な場所で使用されています。
防食めっき材
防食めっき材は、腐食を犠牲にした金属が表面に被覆されている金属材料です。
防食めっき材では、素地となる金属よりも電気化学的に碑(ひ)な金属が表面に被覆されています。すると、腐食環境に置かれたときに被覆金属が優先的に腐食され、素地の金属は腐食から守られます。
このように、被覆した金属を腐食させ、素地の金属を腐食しないようにする防食法を「犠牲防食」と言います。腐食のところで解説した「異種金属接触腐食」を応用した防食法です。
代表的な防食めっき材に、鋼に亜鉛を被覆させた「亜鉛めっき鋼板」があります。鋼に被覆されている亜鉛が犠牲防食の役割を果たします。
防食めっき加工が施された材料は見た目が美しくなる効果もあり、建材や自動車のパネルなど、多くの場所で使用されています。
おわりに
本記事では金属材料の腐食と耐食性について解説してきましたが、ご理解いただけましたでしょうか。
腐食や耐食性の話は化学的な知識をともなうため、少々理解しづらい点もあったかもしれません。しかしこれを頭に入れておけば、ものづくりの場面できっと役立つときが来るはずです。
金属材料の腐食や耐食性についてもっと詳しく知りたいと思われた方は、一度教材を手に取って勉強されることをおすすめします。
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