鉄鋼材料は、ものづくりでもっとも使用されている金属材料です。
調理器具や工具などの日用品をはじめ、自動車や家電などの部品、高層ビルや橋梁などの建築物まで、多くの製品に使用されています。
鉄鋼材料と言ってもたくさんの種類があり、それぞれ材料特性や用途が異なります。一体、どのような鉄鋼材料があるのか気になる方もいるでしょう。
本記事では、実用的な鉄鋼材料を13種類解説しています。鉄鋼材料を選定するさいの参考にもなりますので、ぜひ最後までご覧ください!
この記事は、現役の材料エンジニアが書いています!
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鉄鋼材料は種類が多い
日本産業規格(JIS)には、2,000品種以上の鉄鋼材料が定められています。
日本産業規格とは、産業製品に関する規格や測定法などを定めている日本の国家規格のことです。通称「JIS」と呼ばれ、多くの産業製品がJISに基づいて製造されています。
JISには多くの材料規格がありますが、鉄鋼材料の規格は他の材料に比べて非常に数が多いです。一般的な鉄鋼材料である「鋼材(こうざい)」の規格数だけでも、約200規格あります。各規格では材質や材料特性などによって品種が細かく分類されており、その品種の数は2,000品種にものぼります。
海外に目を向けると「ISO」や「ASTM」などの国際規格もあり、これらの規格にもさまざまな種類の鉄鋼材料が定められています。鉄鋼メーカーが「メーカー規格」として独自に鉄鋼材料を規格化し、販売している場合もあります。
これらも合わせると、世の中には非常に膨大な品種の鉄鋼材料が存在することになります。それほど鉄鋼材料は種類が多いことを意味します。そんな鉄鋼材料の中から最適な材料を選定することは、容易でないことが想像できるかと思います。
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鉄鋼材料の分類
鉄鋼材料のおおまかな分類を知っておきましょう。おおまかな分類を知っておくと、鉄鋼材料の全体像をとらえやすくなります。
鉄鋼材料の分類の仕方はさまざまありますが、ここでは次の2つの分類について見ていきます。
- 化学成分による分類
- 加工状態による分類
化学成分による分類
化学成分とは、材料が持つ化学的な組成のことです。鉄鋼材料はさまざまな元素を含有しており、材料によって元素の組成が異なります。
鉄鋼材料は、化学成分によって次の3材料に大別することができます。
- 純鉄(じゅんてつ) [炭素含有量:約0.02%以下]
- 鋼(はがね) [炭素含有量:約0.02~2.1%]←基本の鉄鋼材料
- 鋳鉄(ちゅうてつ) [炭素含有量:約2.1~6.7%]
これらの材料の違いは、炭素含有量です。同じ鉄でありながら、まったく異なる材料特性を示します。
純鉄は比較的やわらかく、伸びやすい材料です。逆に鋳鉄は非常に硬く、もろい材料です。鋼はその中間の性質を持ち、「強度」と「靭性(じんせい)」のバランスがよい材料です。靭性とは、材料が塑性変形しても破壊しないように耐える性質のことです。
鉄にこのような性質を与えているのが、「炭素」です。炭素は鉄を硬くする働きがあり、0.1%~1.0%程度の含有量でほどよい強度と靭性を示します。
そのため鋼は鉄鋼材料としての用途に向いており、基本の鉄鋼材料となっています。鋼製の材料は、一般的に「鋼材(こうざい)」と呼ばれます。
鋼の分類
基本の鉄鋼材料である鋼は、次の2鋼種(こうしゅ)に大別することができます。
- 炭素鋼(たんそこう)・・・もっとも一般的な鋼で、強度は比較的低い
- 合金鋼(ごうきんこう)・・・合金元素を含有する鋼で、特殊な性質を持つ
これらの鋼種の違いは、合金元素を含有しているかどうかです。合金元素は鋼の性質を向上させる働きがあるため、合金鋼は「高靭性」、「高耐熱性」、「高耐食性」など、特殊な性質を示します。ただしレアメタルなどを使用しているため、比較的高価です。
このように、鉄鋼材料は「鋼」が基本です。鋼はさらに「炭素鋼」と「合金鋼」に分類され、用途や目的に応じて使用されます。鉄鋼材料を知る上で、これらのことは最低限知っておきたい知識です。
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加工状態による分類
鉄鋼材料は、溶けた鉄(鋼)を冷やし固める、つまり「鋳造(ちゅうぞう)」することで材料になっています。
鋳造された鉄鋼材料は、その後「塑性(そせい)加工」されているかどうかによって、材料の特性に違いが生じます。塑性加工とは、材料に力を加えて変形を生じさせる加工方法のことです。
鉄鋼材料は加工状態によって、次の3材料に大別することができます。
- 圧延材(あつえんざい)・・・圧延されているため結晶粒が細かく、強靭な材料
- 鍛造品(たんぞうひん)・・・鍛造されているため金属組織の異方性が少なく、強靭な材料
- 鋳造品(ちゅうぞうひん)・・・塑性加工されておらず、強靭性に乏しい材料
この中でもっとも一般的な鉄鋼材料は、圧延材です。市場流通性が高く、比較的安価な材料です。
圧延材は圧延時の温度によって、さらに次の2材料に大別することができます。
- 熱間圧延材(ねっかんあつえんざい)・・・一般的な圧延材で、強度と靭性のバランスが優れている
- 冷間圧延材(れいかんあつえんざい)・・・表面が滑らかで、寸法精度がよい
このように、鉄鋼材料は化学成分や加工形態によって分類できます。これら違いは材料特性だけでなく、コストにも影響することを覚えておくとよいでしょう。
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実用的な13種類の鉄鋼材料
ここでは、JISに定められている鉄鋼材料の中から、選定に役立つ実用的な鉄鋼材料を13種類解説しています。
なお、本文中に登場する「JIS G ○○○○(4桁の数字)」は、その鉄鋼材料を規定しているJIS番号を示しています。
① 一般構造用圧延鋼材(SS材)
一般構造用圧延鋼材は、一般構造への使用に適した材料特性をもつ熱間圧延鋼材です。通称、「SS材」と呼ばれます。
一般構造とは、橋梁、船舶、車両などの構造物の一般的な構造部分を指します。本鋼材の特徴は、次の通りです。
本鋼材は低炭素鋼であるため、比較的低強度です。そのため、大きな強度や衝撃が要求されない用途に向いています。鉄鋼材料は熱処理(焼入れ)によって強度の向上を図れますが、本鋼材はそれができません。
JIS G 3101には、4鋼種の一般構造用圧延鋼材が定められています。それぞれ引張り強さの保証値が異なります。
本鋼材の中でも「SS400」はSS材の代表格で、ニーズが高く、安価で入手しやすい鋼材です。幅広い分野で広く用いられています。
鋼種 | 引張り強さ |
---|---|
SS330 | 330~430N/mm2 |
SS400 | 400~510N/mm2 |
SS490 | 490~610N/mm2 |
SS540 | 540N/mm2以上 |
② 溶接構造用圧延鋼材(SM材)
溶接構造用圧延鋼材は、溶接構造物への使用に適した材料特性をもつ圧延鋼材です。通称、「SM材」と呼ばれます。
本鋼材の特徴は、次の通りです。
本鋼種は一般構造用圧延鋼材(SS材)と同じ低炭素鋼ですが、SS材と異なる点は溶接性を確保する組成になっている点です。
溶接性とは、溶接部に割れなどが生じることなく溶接できる程度のことです。鋼中に炭素(C)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)などの含有量が大きいと、溶接したときに母材が割れを生じることがあります。本鋼種はこれらの元素の含有量を抑えており、溶接に適した材料設計になっています。
本鋼種は溶接性以外に、靭性が保証されています。
溶接構造物では、外力によって変形が生じたときに接合部が破断しないように、靭性が求められます。一般的に「シャルピー吸収エネルギー」の値が高い材料ほど、靭性が高くなります。
JIS G 3106には、11鋼種の溶接構造用圧延鋼材(SM材)が定められています。それぞれ引張り強さ、シャルピー吸収エネルギーの保証値が異なります。本鋼種は主に橋梁、船舶、車両、石油貯蔵、容器などの溶接構造物に使用されています。
鋼種 | 引張り強さ | シャルピー吸収エネルギー |
---|---|---|
SM400A/SM400B/SM400C | 400~510N/mm2 | A種:規定なし、 B種:27J以上、C種:47J以上 |
SM490A/SM490B/SM490C/ SM490YA/SM490YB | 490~610N/mm2 | A種:規定なし、 B種:27J以上、C種:47J以上 |
SM520B/SM520C | 520~640N/mm2 | B種:27J以上、C種:47J以上 |
SM570 | 570~720N/mm2 | 47J以上 |
③ 建築構造用圧延鋼材(SN材)
建築構造用圧延鋼材は、建築構造物への使用に適した材料特性をもつ熱間圧延鋼材です。通称、「SN材」と呼ばれます。
本鋼材の特徴は、次の通りです。
本鋼種は、溶接構造用圧延鋼材(SM材)と同じく低炭素鋼です。SM材と同じように溶接性や靭性に優れますが、高い「塑性変形能力」をもつ点が本鋼種の大きな特徴です。
建築構造物において、材料の塑性変形能力は耐震性に大きく影響します。塑性変形能力が高い材料ほど地震エネルギーをよく吸収でき、破壊を起こしにくくなります。
本鋼種では塑性変形能力を確保するため、「降伏比」に上限が定められています。また、厚さ方向の引張り力に対する性能として「厚さ方向特性」も定められています。
JIS G 3136には、5鋼種の建築構造用圧延鋼材(SN材)が定められています。それぞれ引張り強さ、降伏比、シャルピー吸収エネルギー、厚さ方向特性の保証値が異なります。
かつて、建築構造用材料にはSS材やSM材が使用されていました。近年、建築構造物に高い耐震性能が求められることから、現在ではSN材が建築構造用材料の主流となっています。
鋼種 | 引張り強さ | 降伏比(注) | シャルピー吸収エネルギー | 厚さ方向特性 |
---|---|---|---|---|
SN400A | 400~510N/mm2 | 規定なし | 規定なし | 規定なし |
SN400B | 400~510N/mm2 | 80以下 | 27J以上 | 規定なし |
SN400C | 400~510N/mm2 | 80以下 | 27J以上 | 絞り25%以上 |
SN490B | 490~610N/mm2 | 80以下 | 27J以上 | 規定なし |
SN490C | 490~610N/mm2 | 80以下 | 27J以上 | 絞り25%以上 |
④ 機械構造用鋼材(S-C材、SCM材、SNCM材など)
機械構造用鋼材は、機械構造への使用に適した材料性質をもつ鋼材です。
本鋼材の特徴は、次の通りです。
本鋼材の特徴は「強度」、「靭性」、「耐摩耗性」などの性質に優れる点です。これらの性質は多くの機械構造に欠かせない性質です。そのため、本鋼材は一般用機械から航空機に至るまで、幅広い機械の部品などに使用されています。
機械構造用鋼材には、炭素鋼系のものと合金鋼系のものがあります。鋼種が非常い多いため、幅広い鋼種の中から欲しい材料特性のものを自在に選択できる点も本鋼材の特徴です。
炭素鋼系(S-C材)
JIS G 4051には、27鋼種の「機械構造用炭素鋼鋼材」が定められています。それぞれ炭素含有率が異なり、一番低いもので0.1%程度、一番高いもので0.6%程度あります。炭素含有率が高いものほど強度が高く、焼入れによってさらに強度を向上させることも可能です。
本鋼材の中でも「S45C」は代表的な機械構造用炭素鋼鋼材で、シャフト、歯車、ボルト、ナットなど、多くの機械部品に使用されています。
鋼種 | 組成 | 鋼種 | 組成 | 鋼種 | 組成 |
---|---|---|---|---|---|
S10C | 0.10C-0.25Si-0.45Mn | S33C | 0.33C-0.25Si-0.45Mn | S55C | 0.55C-0.25Si-0.45Mn |
S12C | 0.12C-0.25Si-0.45Mn | S35C | 0.35C-0.25Si-0.45Mn | S58C | 0.58C-0.25Si-0.45Mn |
S15C | 0.15C-0.25Si-0.45Mn | S38C | 0.38C-0.25Si-0.45Mn | S60C | 0.60C-0.25Si-0.75Mn |
S17C | 0.17C-0.25Si-0.45Mn | S40C | 0.40C-0.25Si-0.45Mn | S65C | 0.65C-0.25Si-0.75Mn |
S20C | 0.20C-0.25Si-0.45Mn | S43C | 0.43C-0.25Si-0.45Mn | S70C | 0.70C-0.25Si-0.75Mn |
S22C | 0.22C-0.25Si-0.45Mn | S45C | 0.45C-0.25Si-0.45Mn | S75C | 0.75C-0.25Si-0.75Mn |
S25C | 0.25C-0.25Si-0.45Mn | S48C | 0.48C-0.25Si-0.45Mn | S09CK | 0.09C-0.20Si-0.45Mn |
S28C | 0.28C-0.25Si-0.45Mn | S50C | 0.50C-0.25Si-0.45Mn | S15CK | 0.15C-0.25Si-0.45Mn |
S30C | 0.30C-0.25Si-0.45Mn | S53C | 0.53C-0.25Si-0.45Mn | S20CK | 0.20C-0.25Si-0.45Mn |
合金鋼系(SMn材、SCr材、SCM材、SNCM材など)
JIS G 4053には、40鋼種の「機械構造用合金鋼鋼材」が定められています。それぞれ合金元素の組成が異なります。
クロムモリブデン鋼の「SCM440」は代表的な機械構造用合金鋼鋼材で、高い強度と靭性を示します。自動車のシャフトや歯車、軸受などの、荷重を支えて動力を伝達する部品などによく使用されています。
ニッケルクロムモリブデン鋼の「SNCM439」も、比較的使用頻度が高い鋼材です。焼入れ性を向上させるニッケルを含有しているため、強度を確保することが難しい大型のシャフトや歯車などに使用されています。
ニッケルクロム鋼の「SNC815」は「肌焼鋼(はだやきこう)」の一種で、浸炭焼入れによって表面を硬化させて使用します。耐摩耗性、疲労強度、耐衝撃性に優れるため、主に大型の歯車に使用されています。
分類 | 鋼種 |
---|---|
マンガン鋼 | SMn420/SMn433/SMn438/SMn443 |
マンガンクロム鋼 | SMnC420/SMnC443 |
クロム鋼 | SCr415/SCr420/SCr430/SCr435/SCr440/SCr445 |
クロムモリブデン鋼 | SCM415/SCM418/SCM420/SCM421/SCM425/ SCM430/SCM432/SCM435/SCM440/SCM445/ SCM822 |
ニッケルクロム鋼 | SNC236/SNC415/SNC631/SNC815/SNC836 |
ニッケルクロムモリブデン鋼 | SNCM220/SNCM240/SNCM415/SNCM420/ SNCM431/SNCM439/SNCM447/SNCM616/ SNCM625/SNCM630/SNCM815 |
アルミニウムクロムモリブデン鋼 | SACM645 |
⑤ 熱間圧延軟鋼板(SPH材)
熱間圧延軟鋼板は、曲げなどの加工に適した材料特性をもつ熱間圧延鋼板です。通称、「SPH材」と呼ばれます。
鋼板とは、板状に作られた鋼材のことです。熱間圧延されたあとコイル状に巻かれているため、本鋼材は「ホットコイル」とも呼ばれています。
本鋼材の特徴は、次の通りです。
熱間圧延軟鋼板は、炭素含有率が約0.1%以下と低めに作られています。そのため本鋼種はやわらかく、加工性の指標として用いられる「伸び」が高くなっています。
本鋼種は主に曲げたり切断したりして使用され、機械の外装などを作るときに適しています。
JIS G 3131には、4鋼種の熱間圧延軟鋼板が規定されています。それぞれ伸びの保証値が異なります。自動車、建材、建機、容器、鋼管、電気製品など、幅広く使用されています。
鋼種 | 炭素含有率 | 用途(参考) |
---|---|---|
SPHC | 0.12%以下 | 一般用 |
SPHD | 0.10%以下 | 加工用 |
SPHE | 0.08%以下 | 加工用 |
SPHF | 0.08%以下 | 加工用 |
⑥ 冷間圧延鋼板(SPC材)
冷間圧延鋼板は、絞りなどの加工に適した材料特性を持つ冷間圧延鋼板です。通称、「SPC材」と呼ばれます。
冷間圧延鋼板は表面がなめらかでつやがあるため、「ミガキ材」とも呼ばれています。本鋼種は、次の特徴を持ちます。
冷間圧延鋼板は炭素含有率が低く、鋼種によっては0.02%以下にまで抑えられているものもあります。そのため延性に優れ、伸びやすいことから絞り加工に適しています。
前述の熱間圧延軟鋼板は表面が酸化しているため黒皮がありますが、冷間圧延鋼板には黒皮がありません。そのため厚みにばらつきがなく、寸法精度が高い点も本鋼種の特徴です。
JIS G 3141では、5鋼種の冷間圧延鋼板が定められています。主に見た目の外観を重視する機械部品や、寸法精度が求められるような場所に使用されています。
鋼種 | 炭素含有率 | 用途(参考) |
---|---|---|
SPCC | 0.15%以下 | 一般用 |
SPCD | 0.10%以下 | 絞り用 |
SPCE | 0.08%以下 | 深絞り用 |
SPCF | 0.06%以下 | 非時効性深絞り用 |
SPCG | 0.02%以下 | 非時効性超深絞り用 |
⑦ ステンレス鋼材(SUS材)
ステンレス鋼材は、クロム(Cr)を10.5%以上含有し、高い耐食性をもつ鋼材です。通称、「SUS材」と呼ばれます。
本鋼材の特徴は、次の通りです。
一般的に鋼は腐食されやすい金属であり、水や水蒸気に晒されると簡単に腐食を起こしてサビてしまいます。しかし、ステンレス鋼材ではそれが起こりません。その理由は、高いCr含有率にあります。
ステンレス鋼材にはCrが10.5%以上含まれており、これが「不動態被膜」と呼ばれる薄い酸化膜を鋼の表面に形成します。この不動態被膜が鋼と水の反応を阻止し、腐食を防止します。
しかし、ステンレス鋼材は海水などに含まれる塩化物イオンに対しては弱く、腐食を起こします。また、環境によっては大気下でも「孔食」や「すきま腐食」などの腐食を起こすため、注意が必要です。
ステンレス鋼材は、材質によって次の5鋼種に大別されます。それぞれ耐食性の強さや、機械的性質などが異なります。
分類 | 特徴 | 代表鋼種 |
---|---|---|
オーステナイト系 | 加工性、耐食性、溶接性に優れる | SUS304、SUS316 |
フェライト系 | 軟質で加工性に優れる | SUS430 |
オーステナイト・ フェライト系 | オーステナイト系ステンレス鋼よりも 高い強度と耐食性を示す | SUS329J4L |
マルテンサイト系 | 硬くて靭性に優れる | SUS403、SUS410 |
析出硬化系 | 非常に硬い | SUS630、SUS631 |
JIS G 4303には、61鋼種のステンレス鋼材(SUS材)が定められています。ステンレス鋼材は欠かせない工業材料の一つであり、調理器具、家電機器、自動車用品、建築資材、医療用器具など、幅広い分野で使用されています。
分類 | 鋼種 |
---|---|
オーステナイト系 | SUS201/SUS202/SUS301/SUS302/SUS303/SUS303Se/ SUS303Cu/SUS304/SUS304L/SUS304N1/SUS304N2/SUS304LN/ SUS304J3/SUS305/SUS309S/SUS310S/SUS312L/SUS316/ SUS316L/SUS316N/SUS316LN/SUS316Ti/SUS316J1/SUS316J1N/ SUS316F/SUS317/SUS317L/SUS317LN/SUS317J1/SUS836L/ SUS890L/SUS321/SUS347/SUSXM7/SUSXM15J1 |
フェライト系 | SUS405/SUS410L/SUS430/SUS430F/SUS434/SUS447J1/SUSXM27 |
オーステナイト・ フェライト系 | SUS329J1/SUS329J3L/SUS329J4L |
マルテンサイト系 | SUS403/SUS410/SUS410J1/SUS410F2/SUS416/SUS420J1/ SUS420J2/SUS420F/SUS420F2/SUS431/SUS440A/SUS440B/ SUS440C/SUS440F |
析出硬化系 | SUS630/SUS631 |
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⑧ 耐熱鋼材(SUH材)
耐熱鋼材は、その名の通り耐熱性をもつ鋼材です。通称、「SUH材」と呼ばれます。
本鋼材の特徴は、次の通りです。
一般的に、鋼は高温環境下では強度が低下します。そのため、常温での破断荷重よりも低い荷重で破断を起こします。また、酸化や腐食も常温より早い速度で起こり、材料の劣化を早めます。
耐熱鋼材は、鋼がもつこれらの弱点を克服した材料特性をもつ鋼材です。
耐熱鋼材の材質は「ステンレス鋼」です。ステンレス鋼がもつ耐食性や耐酸化性などの材料特性がそのまま耐熱鋼材に活かされています。そのため、耐熱鋼材はステンレス鋼と同様に「オーステナイト系」、「フェライト系」、「マルテンサイト系」、「析出硬化系」に分類されます。
JIS G 4311に「耐熱鋼棒・線材」として35鋼種、JIS G 4312に「耐熱鋼板・鋼帯」として28鋼種の耐熱鋼材が定められています。鋼種は「SUH系」と「SUS系」の2種類があります。SUS系は、通常のステンレス鋼材を耐熱鋼材に転用したものです。
耐熱鋼材の代表的な用途は、火力発電所のボイラーやタービン、自動車や航空機のエンジン部品、ゴミ焼却処理設備などです。
分類 | 鋼種 |
---|---|
オーステナイト系 | SUH31/SUH35/SUH36/SUH37/SUH38/SUH309/SUH310/ SUH330/SUH660/SUH661/SUS302B-HR/SUS304-HR/ SUS309S-HR/SUS310S-HR/SUS316-HR/SUS316Ti-HR/ SUS317-HR/SUS321-HR/SUS347-HR/SUSXM15J1-HR |
フェライト系 | SUH21/SUH409/SUH409L/SUH446/SUS405-HR/ SUS410L-HR/SUS430-HR/SUS430J1L-HR/SUS436J1L-HR |
マルテンサイト系 | SUH1/SUH3/SUH4/SUH11/SUH600/SUH616/ SUS403-HR/SUS410-HR/SUS410J1-HR/SUS431-HR |
析出硬化系 | SUS630-HR/SUS631-HR |
⑨ 工具鋼材(SK材)
工具鋼材は、工具・治具などへの使用に適した材料特性をもつ鋼材です。通称、「SK材」と呼ばれています。
本鋼材の特徴は、次の通りです。
工具は、金属や非金属材料を「切削加工」したり「塑性加工」したりするための道具です。使用中に工具と被加工物どうしが頻繁にこすれ合うするため、「硬くて摩耗に強いこと」が求められます。
また、使用中に高温になるため、「高温でも強度が低下しないこと」が求められます。その他、「繰り返し応力によって疲労破壊を起こさないこと」や、「加熱と冷却の繰り返しによってヒートクラックが発生しないこと」なども求められます。
工具鋼材は、これらに優れた材料特性をもちます。工具鋼は、材質によって「炭素工具鋼材」、「合金工具鋼材」、「高速度工具鋼材」の3つに分類されます。
炭素工具鋼材
炭素工具鋼材は、特別に合金元素を添加せず、炭素のみで硬さを確保している工具鋼材です。
JIS G 4401には、11種類の炭素工具鋼材が定められています。炭素含有率は、一番低いもので0.6%程度、一番高いもので1.4%程度あります。
代表的な炭素工具鋼材として、「SK105」が知られています。やすり、ドリル、ハクソー、刃物、丸のこ、たがね、刻印などの小型工具への使用に適しています。
鋼種 | 組成 | 鋼種 | 組成 |
---|---|---|---|
SK140 | 1.40C-0.20Si-0.30Mn | SK80 | 0.80C-0.20Si-0.30Mn |
SK120 | 1.20C-0.20Si-0.30Mn | SK75 | 0.75C-0.20Si-0.30Mn |
SK105 | 1.05C-0.20Si-0.30Mn | SK70 | 0.70C-0.20Si-0.30Mn |
SK95 | 0.95C-0.20Si-0.30Mn | SK65 | 0.65C-0.20Si-0.30Mn |
SK90 | 0.90C-0.20Si-0.30Mn | SK60 | 0.60C-0.20Si-0.30Mn |
SK85 | 0.85C-0.20Si-0.30Mn | - | - |
合金工具鋼材
合金工具鋼材は合金元素が添加され、材用特性を向上させた工具鋼材です。
JIS G 4404には、32種類の合金工具鋼材が定められています。用途として「切削工具鋼用」、「耐衝撃工具鋼用」、「冷間金型用」、「熱間金型用」があります。代表的な合金工具鋼材として「SKD11」、「SKD61」が知られています。
SKD11は耐摩耗性と焼入れ性に優れており、主に大型の冷間金型に使用されています。SKD61は靭性と耐熱性に優れており、主に熱間金型に使用されています。
分類 | 鋼種 |
---|---|
切削工具用 | SKS11/SKS2/SKS21/SKS5/SKS51/SKS7/SKS81/SKS8 |
耐衝撃工具用 | SKS4/SKS41/SKS43/SKS44 |
冷間金型用 | SKS3/SKS31/SKS93/SKS94/SKS95/ SKD1/SKD2/SKD10/SKD11/SKD12 |
熱間金型用 | SKD4/SKD5/SKD6/SKD61/SKD62/ SKD7/SKD8/SKT3/SKT4/SKT6 |
高速度工具鋼材
高速度工具鋼材は別名「ハイス」と呼ばれ、合金元素が多量に添加されている工具鋼材です。高温でも硬さが低下せず、高速で加工できることから、その名前が付いています。
JIS G 4403には、15種類の高速度工具鋼材が定められています。代表的な高速度工具鋼材として「SKH51」が知られています。SKD11よりも靭性、硬さ、耐摩耗性に優れ、使用時の負荷が大きな切削工具や鍛造用金型などに使用されています。
分類 | 鋼種 |
---|---|
タングステン系 | SKH2/SKH3/SKH4/SKH10 |
粉末冶金で製造したモリブデン系 | SKH40 |
モリブデン系 | SKH50/SKH51/SKH52/SKH53/SKH54/ SKH55/SKH56/SKH57/SKH58/SKH59 |
⑩ ばね鋼材(SUP材)
ばね鋼材は、ばねへの使用に適した材料特性をもつ鋼材です。通称、「SUP材」と呼ばれています。
本鋼材の特徴は、次の通りです。
ばねは、上から押すと縮み、押すのを止めると元の形に戻る動作が起こります。ばねがこの動作を起こすためには、材料に「高い弾性限(降伏強度)」が必要になります。
また、ばねは使用中に繰り返し荷重や衝撃が発生するため、「疲れ強さ(耐久性)」や「耐へたり性」も必要です。ばね鋼材は、これらの特性に優れた材料特性をもちます。
JIS G 4801には、8鋼種のばね鋼鋼材が定められています。代表的なばね鋼に、シリコンクロム系の「SUP12」と、クロムモリブデン系の「SUP13」があります。
SUP12は耐へたり性が優れていることから、自動車用懸架コイルばねに使用されています。SUP13は焼き入れ性が優れていることから、超大型のばねに使用されています。
分類 | 鋼種 |
---|---|
シリコンマンガン系 | SUP6/SUP7 |
マンガンクロム系 | SUP9/SUP9A |
クロムバナジウム系 | SUP10 |
マンガンクロムボロン系 | SUP11A |
シリコンクロム系 | SUP12 |
クロムモリブデン系 | SUP13 |
⑪ 軸受鋼材(SUJ材)
軸受鋼材は、転がり軸受への使用に適した材料特性をもつ鋼材です。通称、「SUJ材」と呼ばれています。
本鋼材の特徴は、次の通りです。
転がり軸受は、軸受の中でボールが転がることで軸を支える部品です。そこには高い「耐摩耗性」と「転がり疲労特性」が求められます。
軸受鋼は、これらの特性に優れた材料特性をもっています。材料の組成は、炭素含有率が1%程度、クロム含有率が1.0~1.5%程度の「高炭素クロム鋼」です。この組成が鋼の硬度を高め、耐摩耗性や転がり疲労特性を生み出しています。
JIS G 4805には、4鋼種の高炭素クロム軸受鋼が規定されています。それぞれ化学成分が異なります。
代表的な軸受鋼材は「SUJ2」です。極小から中形までのあらゆる軸受に使用されています。
鋼種 | 組成 |
---|---|
SUJ2 | 1.0C-0.25Si-0.40Mn-1.45Cr |
SUJ3 | 1.0C-0.55Si-1.05Mn-1.05Cr |
SUJ4 | 1.0C-0.25Si-0.40Mn-1.45Cr-0.15Mo |
SUJ5 | 1.0C-0.55Si-1.05Mn-1.05Cr-0.15Mo |
⑫ 快削鋼材(SUM材)
快削鋼は、被削性に優れた鋼材です。通称、「SUM材」と呼ばれています。
ここで被削性とは「削られやすさ」のことで、鋼材を切削加工するときに重視される指標です。本鋼材の特徴は、次の通りです。
快削鋼材は、鋼の被削性を向上させるために「硫黄(S)」または「鉛(Pb)」もしくはこれらを複合したものが多量に添加されています。これによって工具が摩耗しにくくなり、工具を交換する回数を減らせるメリットが生まれます。
快削鋼材には、切粉がスムーズに排出されるために切粉の処理が容易になるメリットや、仕上げ面が滑らかになって見た目がよくなるメリットもあります。これらのことが加工面の品質を向上させる他、加工リードタイムの低減に寄与します。
JIS G 4804には、13鋼種の快削鋼材が定められています。これらは、組成が異なります。
この中でも「SUM43」は代表的な快削鋼材です。SUM43は優れた被削性を有しながら、S45Cに匹敵する高い強度をもち、実用性が高い鋼材です。
鋼種 | 組成 | 鋼種 | 組成 |
---|---|---|---|
SUM21 | 0.1C-0.9Mn-0.1P-0.2S | SUM31 | 0.17C-1.2Mn-0.1S |
SUM22 | 0.1C-0.9Mn-0.1P-0.3S | SUM31L | 0.17C-1.2Mn-0.1S-0.2Pb |
SUM22L | 0.1C-0.9Mn-0.1P-0.3S-0.2Pb | SUM32 | 0.17C-0.9Mn-0.15S |
SUM23 | 0.05C-0.9Mn-0.07P-0.3S | SUM41 | 0.36C-1.5Mn-0.1S |
SUM23L | 0.05C-0.9Mn-0.07P-0.3S-0.2Pb | SUM42 | 0.41C-1.5Mn-0.1S |
SUM24L | 0.1C-1.0Mn-0.07P-0.3S-0.2Pb | SUM43 | 0.44C-1.5Mn-0.29S |
SUM25 | 0.1C-1.2Mn-0.1P-0.35S | ー | ー |
⑬ 電磁鋼板
電磁鋼板は優れた磁気特性をもち、主に電力機器の鉄心に使用される鋼材です。
本鋼材の特徴は、次の通りです。
電磁鋼板は「ケイ素(Si)」が多く添加されていることから、別名「ケイ素鋼板」とも呼ばれています。
電磁鋼板は、主に電力機器の鉄心に使用されています。鉄心には、磁化によって発生した磁気を効率よく通すために「鉄損(磁化したときに生じる電気エネルギーのロス)が小さいこと」が求められます。電磁鋼板は、この要求を満足するために高い磁気特性をもっています。
電磁鋼板は、磁界の向きによって大きく「方向性電磁鋼板(GO)」と「無方向性電磁鋼板(NO)」に分けられます。「方向性電磁鋼板」は磁気特性が一方向に向いており、主に変圧器の鉄心に使用されています。「無方向性電磁鋼板」は磁気特性の異方性が小さく、主にモータや発電機の鉄心に使用されています。
電磁鋼板は、鉄鋼メーカーが独自に規格化し販売しているケースがほとんどです。近年、電磁鋼板は電気自動車の普及によって需要が拡大しています。
おわりに
本記事では、鉄鋼材料の種類について解説してきました。
ここで解説したことは、わずかな内容に過ぎません。実際に鉄鋼材料を扱おうとする場合には、鉄鋼の基礎知識や材料特性などをよく理解する必要があります。
鉄鋼材料についてもっと詳しく知りたい方は、参考書を手に取って読まれることをおすすめします。オススメの参考書を紹介しますので、ぜひ手に取ってみてください。