【機械設計者・加工者必見】鉄鋼材料の基礎知識を解説!

機械設計者・加工者必見!鉄鋼材料の基礎知識 鉄鋼材料の解説
鉄鋼材料の解説
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鉄鋼材料は、多くの機械構造物に採用されている材料です。そのため、機械設計者や加工者であれば、鉄鋼材料について知りたいと思うことがあるはずです。

しかし、鉄鋼材料のことを知りたくても、どのようなことを知っておけばよいかわからないと思っていませんか?

そんな方のために、本記事では、最低限知っておきたい鉄鋼材料の基礎知識を解説しています。

若い機械設計者さんや加工者さん向けに、鉄鋼材料の知識を要約してわかりやすく解説しています。

この記事を読んでわかること
  • 鉄鋼材料の材料特性
  • 特殊鋼とはどのような材料なのか
  • 圧延材と鍛造材の違い

この記事は、現役の材料エンジニアが書いています!

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鉄鋼材料はこんなところで使用されている

そもそも、鉄鋼材料がどのようなところで使用されているかを把握していますか?

あまりピンと来ないという方のために、鉄鋼材料が使用されている物について見てみましょう。

鉄鋼材料が使用されている物の例
  • 鉄構造物(ビル、タワー、橋梁など)
  • 自動車(骨格構造、エンジン部品、排気系部品、駆動系部品、足回り系部品など)
  • 船舶(船体構造、エンジン部品、発電機部品、推進器など)
  • 鉄道車両(ボディ、車軸、モータなど)
  • 産業機械(歯車、軸、ボルト、ナット、ばね、ベアリングなど)
  • プラント(貯蔵容器、反応容器、熱交換機、ポンプなど)
  • 火力発電機器(タービン、ボイラ、バルブ、蒸気配管など)
  • 原子力発電機器(格納容器、圧力容器、冷却材配管など)

これを見てわかるように、社会的に重要な役割を果たしている製作物には、鉄鋼材料が使用されていることが多いです

鉄鋼材料は丈夫な材料の象徴であり、鉄構造物では鉄鋼材料によって何百メートルもの高さをもつ高層建築物(ビル、タワーなど)が作られています。

輸送機器や産業機器も鉄鋼材料が欠かせない物の代表例であり、自動車にいたっては車体重量の70%を占める部分に鉄鋼材料が使用されています。火力発電所のボイラや原子力発電所の圧力容器のように、条件が過酷な場所でも鉄鋼材料が活躍しています。

このように鉄鋼材料は多くの製作物に使用されており、鉄鋼材料がいかに重要な材料であるかがわかると思います。ものづくりに欠かせない存在である以上、ものづくりに従事する人は鉄鋼材料の知識が必須であると言えます。

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鉄鋼材料の主要材質は「鋼」

一口に鉄鋼材料と言っても、鉄鋼材料には多くの材質があります。

ここで覚えておきたいのが、鉄鋼材料の主要材質は「鋼(はがね)」ということです。

鋼とは、鉄を主成分とした合金のことです。基本的な合金元素として炭素を含有しており、必要に応じてその他の合金元素が添加されています。

例えば、機械構造用炭素鋼の一種である「S45C」は、次のような組成をしています。

  • S45Cの組成 : 0.45C-0.25Si-0.75Mn

 これは、鋼の中にC(炭素)が0.45%、Si(ケイ素)が0.25%、Mn(マンガン)が0.75%含まれているという意味です。組成は鋼種(=鋼の種類のこと)によって変わり、鋼の特性も変わります。

一般的に、鋼は炭素含有率が0.02~2.1%のものを言います。それ以外のものは、次のように区別されています。

  • 炭素含有率が0.02%以下のもの → 純鉄(じゅんてつ)
  • 炭素含有率が0.02~2.1%以下のもの → 鋼(はがね)
  • 炭素含有率が2.1~6.7%のもの → 鋳鉄(ちゅうてつ)

純鉄は合金元素をほとんど含有しておらず、きわめて純度の高い鉄です。しかし強度がないため、機械材料として使用されることはほとんどありません。

鋳鉄は非常に硬く、もろい鉄です。ただし振動吸収特性があるため、鋳物(いもの)としてマンホールや工作機械のベッドなどに使用されています。

鋼はこれらの中間的な特性をもち、一般的に鋼材(こうざい)として使用されています。

鋼材の材料特性

鋼材がもつ基本的な材料特性は、強度があること、そして靭性(じんせい)があることです。

鋼材に強度があることは、比較的イメージしやすいかと思います。一般的に鋼材の強度は、引張試験によって求められる「引張強さ」のことを指します。引張強さとは、外力によって引っ張られる力に対して示す抵抗力のことです。

靭性についてはあまり聞きなれないかもしれませんが、これは外力によって変形を生じたときに、破壊しないように粘ろうとする強さのことを言います。

つまり鋼材には引張荷重を受けても破断しないように耐える強さがあり、また、衝撃を受けても急速に破壊しないように粘る強さがあります。

ただし、どの鋼材も一律に高い強度と靭性があるわけではありません。材料特性は鋼種によって異なります。また、使用環境によってもその特性は変化します。

一般的な鋼材である普通鋼(炭素鋼)の性質を以下に示します。

  • 高強度材ほど、靭性・延性が低い
  • 高温域では、強度が低下する
  • 低温域では、靭性が低下する
  • 基本的に腐食しやすい

鋼材を使用するときや選定するときは、鋼材にこのような性質があることを覚えておきましょう。以下にこれらのことを詳しく解説していきます。

① 高強度材ほど、靭性・延性が低い

強度と靭性には、相反する関係性があります。

一般的に、硬くて高強度な鋼材ほど靭性が低くなります。靭性が低い鋼材は、変形をともなうほどの強い衝撃を受けたときに急速にき裂が進展し、破壊を起こす可能性があります。

靭性は、主に衝撃試験によって求められる「シャルピー吸収エネルギー」で評価されます。シャルピー吸収エネルギーの値が大きい鋼材ほど、靭性が高いことを示します。

高強度な鋼材では、靭性以外に「延性(えんせい)」も低下します。

延性とは伸びやすさのことで、材料の成形性にかかわる性質です。延性が高い材料は曲げや絞りなどの成形加工がしやすいですが、強度が高くて延性が低い材料はこれらの成形加工に向いていません。

② 高温域では、強度が低下する

一般的に、300℃を超える高温域では、鋼材の強度が低下します。そのため、高温域での使用時に荷重が加わっていると、鋼材は常温での破断荷重よりも低い荷重で破断を起こします。

またクリープ現象といって、荷重が低くても、材料が少しずつ伸びて破断に至る現象が発生します。 このクリープ現象は、火力発電所のボイラや蒸気配管などでは重要視されています。

高温域における鋼材の強度は、主に「高温引張試験」や「クリープ破断試験」によって評価されます。

高温域では、鋼材の酸化も進みやすくなります。そのため、高温域で鋼材を使用する場合は、高温でも信頼できる鋼材を使用する必要があります。

③ 低温域では、靭性が低下する

一般的に、氷点下などの低温域では、鋼材の靭性が低下します。そのため、鋼材は低温域で使用するともろくなり、弱い衝撃でも破壊を起こします。

温度低下によって靭性が低下して材料がもろくなる現象のことを「低温脆性(ていおんぜいせい)」と言います。過去には、低温脆性によって発生した事故がいくつもあります。その代表的な事故が、リバティー船沈没事故です。

リバティー船は、第二次世界大戦中にアメリカで大量に製造された輸送船です。2,708隻建造されたリバティー船のうち、1,000隻以上に船体の欠陥が認められ、うち200隻は折損して沈むなどの重大事故が発生しました。

船体には一般的な鋼材が使用されており、鋼材どうしは溶接で接合されていました。この鋼材が冷たい海水に晒されたことで低温脆性を起こし、事故をもたらしたとされています。

④ 基本的に腐食しやすい

腐食とは、材料表面の鉄が空気や水と反応して溶け出し、酸化する現象のことです。俗にいう「サビ」は、この腐食が原因です。

鋼材は基本的に腐食しやすく、腐食した部分はもろくなります。

鉄は水に濡れるとサビるイメージがあるかと思いますが、水は空気中にも存在するため、腐食は大気中でも起こります。さらに、塩素イオンを含む海水などに晒された場合は、急速に腐食が進行します。

鋼材の使用中に腐食が進行すると、部材としての機能が低下して事故につながるため、大変危険です。腐食しやすい環境で鋼材を使用する場合は、腐食に対して信頼性のある鋼材を使用する必要があります。

特殊な用途に使用される「特殊鋼」

先ほど解説したように、使用環境によって鋼材は劣化を起こし、材料としての機能を徐々に失っていきます。

そんな鋼材のデメリットを改善し、特殊な環境や条件でも使用できる鋼材があります。それが「特殊鋼」です。

特殊鋼は合金元素を多量含む鋼で、別名「合金鋼」とも呼ばれます。特殊鋼にはたくさんの種類がありますが、代表的な特殊鋼を以下に示します。

特殊鋼の種類特徴代表的な鋼種名
機械構造用鋼材強度・靭性に優れるSCM440、SNCM439
工具鋼材耐摩耗性・耐熱性に優れるSKD11、SKD61、SKH51
ばね鋼材弾性限・疲労特性に優れるSUP12、SUP13
軸受鋼材耐摩耗性・疲労特性に優れるSUJ2
ステンレス鋼材耐食性に優れるSUS304、SUS430、SUS329J4L
耐熱鋼材高温強度・耐酸化性・
耐高温腐食性に優れる
SUH600、SUH661
高張力鋼材強度・靭性・溶接性に優れるSM570、SPV490、SHY685

特殊鋼がもつ優れた特性は、特定の環境や条件でその強さを発揮します。「機械構造用鋼材」は代表的な特殊鋼ですが、高い強度と靭性を兼ね備えていることから、機械の動力部に広く使用されています。

また、SUS304に代表される「ステンレス鋼材」は、腐食に強い材料として有名な特殊鋼です。輸送機器、家庭用機器、産業機器、建設・土木分野など、幅広い分野で使用されています。

近年、カーボンニュートラルやSDGの促進・普及を背景に、機器の長寿命化や動力の高出力化を目指す動きが加速しています。それを実現可能にするため、特殊鋼の利用が欠かせなくなってきています。

高い性能をもつ一方で、特殊鋼はレアメタルを含む合金元素が多量に使用されています。そのため、コストが高いことが特殊鋼のデメリットと言えます。

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圧延材と鍛造材の違い

鋼材は、強靭な材質にするために製造過程で塑性加工(そせいかこう)が施されています。塑性加工とは、圧力を加えて材料を変形させ、良質な材料組織を作る方法のことです。

鋼材は、塑性加工方法の違いによって大きく「圧延材」と「鍛造材」にわかれます。どちらも強靭性がありますが、材質やコストに差があります。

圧延材と鍛造材それぞれの特徴は次の通りです。

圧延材鍛造材
形状
二次元形状(単純形状)

二次元~三次元形状(立体形状)
材質
材料組織に方向性があり
材料の健全性に劣る

材料組織の方向性が少なく
材料の健全性が高い
入手性・コスト
市場に多く流通しており、
比較的安価で入手しやすい

市場に少なく、
大半は特注のため高価

両者にはこのような差があり、コスト的に有利で入手しやすいのは圧延材です。そのため、圧延材は第一に選択されることが多く、広く利用されています。

一方、圧延材よりも材料内部の健全性が優れるため、鍛造材は高い品質が求められるものを製作するときに選択されることが多いです。材料を三次元状の立体形状で用意できる点も、鍛造材の大きなメリットです。このことは、製作物の工程や品質に影響を与えます。

例えば、鋼材で圧力容器を製作するとします。これを圧延材だけで作る場合、板状の鋼材を用意し、鋼材を曲げ、鋼材どうしを溶接で接合する工程が必要になります。また、溶接部は脆弱になるリスクをもっています。

鍛造材であれば、圧力容器を一体形状で製作することが可能です。溶接による接合を必要としないため、溶接部による脆弱性のリスクもありません。

なお、圧延材と鍛造材の見分け方は、材料記号を確認することです。鍛造材は、材料記号に「SF」が付きます。

鍛造材の材料記号の例
  • SF490A(炭素鋼鍛鋼品)
  • SFVQ1A(圧力容器用調質型合金鋼鍛鋼品)
  • SUSF304(圧力容器用ステンレス鋼鍛鋼品)
  • SFCM780S(クロムモリブデン鋼鍛鋼品)
  • SFNCM930S(ニッケルクロムモリブデン鋼鍛鋼品)

おわりに

本記事では、機械設計者・加工者が最低限知っておきたい鉄鋼材料の基礎知識について解説してきました。

ここで解説していることは、あくまでも初歩的な内容になります。

もっと詳しく知りたいと思った方は、参考書を手に取って読んでみてください。オススメの参考書を掲載しておきます。

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