【品質関連】安い鉄鋼材料に安易に手を出してはいけない理由とは?

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鉄鋼材料を調達するとき、とにかく安い鉄鋼材料を調達しようとしていませんか?

はっきり言うと、それはおススメできません。

「安い鉄鋼材料=品質が悪い」可能性があるからです。

本記事では、鉄鋼材料を調達している方に向けて、安い鉄鋼材料に安易に手を出してはいけない理由を解説しています。

安い鉄鋼材料と高い鉄鋼材料の違いや、安い鉄鋼材料を使用したときに起こる問題などがわかりますよ!

こんな方に読んでいただきたい
  • 鉄鋼材料を調達する仕事をしている。
  • 安い鉄鋼材料と高い鉄鋼材料の違いを知りたい。
  • 鉄鋼材料を正しく調達するコツを知りたい。

なぜ安い鉄鋼材料に手を出してはいけない?

さっそく、「なぜ安い鉄鋼材料に安易に手を出してはいけないのか?」について解説していきます。

品質が悪い可能性がある

安い鉄鋼材料に安易に手を出してはいけない理由は、品質が悪い可能性があるからです。

鉄鋼材料は全て品質が同じということはなく、品質がよいものがあれば、悪いものもあります。巷には「安かろう悪かろう」という言葉がありますが、鉄鋼材料においてもそれが当てはまります。

一般的に、鉄鋼材料の価格と品質には次の関係性が成り立ちます。

  • 高い鉄鋼材料は、品質がよい
  • 安い鉄鋼材料は、品質が悪い

とは言え、使用上の問題がないのであれば、多少品質が悪くても安い鉄鋼材料を調達したいですよね!

これらのことについて、さらに深堀りしていきたいと思います。

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そもそも、品質とは?

ここまで「品質」という言葉を何度も使いましたが、そもそも品質とはなんでしょうか?

ネットで検索してみると、品質について次のように解説されています。

品質とは、その製品やサービスが使用目的を満たしている程度(使用目的への適合性)

品質とは?品質管理とは?品質優先の考え方や顧客の3つの要求を解説|KAIZEN BASE

どういうことかと言うと、「その製品についてあなたが求める性質や機能をどのくらい満足できているか?」ということです。

例えば「あったかそうで心地よさそう」と思って通販サイトで購入したセーターが、実際に着てみたら薄くて寒かった、なんてことがあったら不満ですよね。

つまり、品質が悪い鉄鋼材料とは「あなたが求める性質や機能に達していない鉄鋼材料」のことです。鉄鋼材料において品質は使いやすさや安全性を左右するため、重視しなければいけない要素の一つになります。

品質が悪い鉄鋼材料がもたらすもの

では、品質がよい鉄鋼材料と品質が悪い鉄鋼材料とでは、使用したときにどのような違いが起こるのか、見ていきましょう。

まずは、品質が悪い鉄鋼材料についてです。品質が悪い鉄鋼材料を使用すると、次のような事態をもたらす可能性があります。

  • 鉄鋼材料を思いどおりに加工できない
  • 構造物の耐久性や寿命が落ちる

単純に硬い合金鋼などは別として、品質が悪い鉄鋼材料は「削りにくい」、「曲げにくい」など、思い通りに加工できない可能性があります。加工がしづらいと加工リードタイムが増えたり、工具交換の頻度が増えたりして、結果的にコスト増加につながってしまいます

また品質が悪い鉄鋼材料を構造物に使用すると、構造物の耐久性が落ちたり、寿命が低下したりする恐れがあります。そのような構造物は想定よりも低い応力や使用時間で破壊を起こすため、それが公共施設に使用されるようなものだと、甚大な災害を引き起こす可能性があります。そうなると、構造物の製作を手掛けたメーカーの信用失墜は免れません。

品質がよい鉄鋼材料で得られる効果

一方、品質がよい鉄鋼材料を使用すると、次の効果が期待できます。

  • 思いどおりに鉄鋼材料を加工できる
  • 構造物の耐久性や寿命が上がる

品質がよい鉄鋼材料は「削りやすい」、「曲げやすい」などの加工特性により、思い通りに加工できる効果が期待できます。これによって加工リードタイムが削減され、工具交換の頻度も減るため、結果的にコスト削減につながります

また品質がよい鉄鋼材料を構造物に用いると、構造物の耐久性が上がり、構造物の寿命を延ばす効果が期待できます。構造物の耐久性や寿命が上がるとメンテナンスの頻度を減らすことができ、それにさく人員やコストも削減することができます。また、事故のリスクも減り、メーカーの信用失墜を招くこともありません。

なぜ鉄鋼材料の品質に差が生じるのか

建築用鋼

同じ鉄鋼材料でも、材料間で品質に差が生じるのか、そのことについて見ていきましょう!

製造方法に違いがあるから

鉄鋼材料の品質は、製造方法の違いで差が生じます。

鉄鋼材料の製造方法には大きく「高炉法」と「電炉法」があります。これらは出発原料に違いがあります。

高炉法は、主原料に鉄鉱石を使用し、高炉を用いて鉄を取り出します。一方の電炉法は、主原料に鉄スクラップを使用し、電炉を用いて鉄を取り出します。

鉄スクラップとは、工場などから廃棄された鉄くずのことです。不純物が多いため、一般的に高炉法のほうが品質のよい鉄鋼材料を作ることができます

このように、製造方法の違いが鉄鋼材料の品質に差を生み出しています。

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作りこみの程度が違うから

鉄鋼材料の品質は、作りこみの程度によっても差が生じます。

一般的に、鉄鋼材料は次のようなプロセスで作られます。

鉄鋼材料の基本的な製造プロセス:
① 原料を溶かして鉄を取り出す。
② 精錬を行って不純物を除去し、材質に応じて合金元素を添加し、成分を調整する。
③ 圧延または鍛造を行い、形を整える。
④ 熱処理を行い、強靭な材質にする。

このように、鉄鋼材料の製造は複数の工程から成り立っています。ただ溶かした鉄を固めるだけではなく、溶かしたものをきれいにしたり強くしたりする処理が施されています。

そのため、どの工程も鉄鋼材料の品質に大きく影響します。各工程について、どれか1つでも作りこみが甘いと、鉄鋼材料の品質が落ちてしまいます。

例えば、以下のように作れているケースです。

  • 質の悪い原料が使用されている
  • 十分に精錬されていない、合金元素の添加が十分でない
  • 十分に圧延または鍛造されていない
  • 十分に熱処理されていない

そのような作り方をされている鉄鋼材料は、次のような品質の悪い鉄鋼材料となります。

  • 強度、硬さ、靭性が低い
  • 有害元素を多く含んでいる
  • 清浄度が悪い
  • 十分な耐食性がない

ここで注意すべきことは、見た目では決してわからないということです。実際に使用してみて初めて品質の悪さに気づいたり、構造物に組み入れてから月日が経ったときにトラブルとなって現れたりします。

用語の解説

①清浄度とは
 清浄度とは、「金属内の汚染の程度」のことです。簡単に言うと「ゴミの少なさ」のことです。一般的に金属酸化物や硫化物といった「非金属介在物の量」で評価されます。非金属介在物の量が少ないほど機械的性質などが向上するため、基本的には清浄度は高いほうが望ましいです。

②耐食性とは
 耐食性とは、「腐食のしづらさ」のことです。簡単に言うと「サビにくさ」のことです。特に「ステンレス鋼」において重視される鋼の特性です。耐食性は適正な合金元素を配合したり、適正な熱処理を行ったりすることで確保されます。これらの処理が不適切な鉄鋼材料は、十分な耐食性がありません。

品質がよい鉄鋼材料は“作りこまれている”

鋳造

品質がよい鉄鋼材料というのは、品質を確保するために、次のように作りこまれています。

  • 質のよい原料が使用されている
  • 十分に精錬されている、合金元素が十分に添加されている
  • 十分に圧延または鍛造されている
  • 十分に熱処理されている

 これによって出来上がる鉄鋼材料は、以下のようなものです。

  • 強度、硬さ、靭性がある
  • 有害元素が少ない
  • 清浄度がよい
  • 耐食性がよい

このように、品質がよい鉄鋼材料は品質がよくなるように作りこまれており、鋼の能力が最大限に引き出されています。その結果、鉄鋼材料を思い通りに加工できる効果や、製品の耐久性・寿命を延ばす効果が期待できます。そのぶん価格が上がりますが、高い鉄鋼材料にはちゃんと理由があるのです。

鉄鋼材料を正しく調達するコツ

ミーティング

ここまで、品質が悪い鉄鋼材料を使用すると十分な効果が得られないことを解説しました。しかし、用途によっては品質が悪い鉄鋼材料でも事足りる場合があるのも事実です。

例えば、工作機械をカバーするだけの材料に高価で高品質な材料はいらないですよね。そのような場所にお金をかけるのであれば、工作機械の耐久性や機能性を上げるために内部構造にお金をかけるべきです。

このことを踏まえると、鉄鋼材料を調達するときは以下のことが大切になってきます。

材料に求める品質を明確にすること

鉄鋼材料を調達する上で大切なことは、鉄鋼材料に求める品質を明確にすることです。

鉄鋼材料を正しく調達するコツは、用途、使用環境、使用条件などに応じた品質のものを調達することです。そのためには、鉄鋼材料に必要な条件を洗い出す必要があります。

  • 用途は何か(部品用なのか、一般構造用なのか、機械構造用なのか、意匠用なのか)
  • 材料にどのような負荷や衝撃が加わるか(強度が必要か、靭性が必要か、耐摩耗性が必要か)
  • どのような機能性が必要か(加工性が必要か、寒冷性能が必要か、高温性能が必要か)
  • 長期間の耐久性が必要か(耐食性が必要か、耐候性が必要か、疲労強度が必要か)

このような感じで整理してみると、鉄鋼材料に求める品質が見えてきます。

ちょこっと小話

弁ばねの話
 弁ばねとは「エンジンの吸排気弁の開閉を支えるためのばね」のことです。エンジン駆動中は毎分数千回にも及ぶ伸縮を繰り返すため、ずっと負荷を受け続けています。材料にはワイヤが用いられますが、普通の材質ではすぐに壊れてしまうため、非常に高い品質が求められます。そこで材料の清浄度を高め、疲労強度を高めるための“作りこみ”が施されています。

メーカーに製造方法を指定する

規格材などの鉄鋼材料を調達するときは、メーカーに製造方法を指定することができます。

規格材とは、日本産業規格(JIS)ASTMなどの規格に規定されている汎用的な材料のことです。

例えば、JIS G 3202に規定されている炭素鋼鍛鋼品(SF材)は、化学成分について次のように規定されています。

炭素(C)ケイ素(Si)マンガン(Mn)リン(P)硫黄(S)
0.60%以下0.15~0.50%0.30~1.20%0.030%以下0.035%以下

この中で、溶接性を加味して炭素の含有量を0.30%で指定したり、有害元素であるリン(P)や硫黄(S)を0.020%以下で指定したりすることができます。何も指定しなければ、これらの含有量が高い鉄鋼材料が届いた、なんてこともありえます。そのため、求める品質に合わせて鉄鋼材料の製造方法を指定しましょう。

ただし、鉄鋼メーカーによっては対応できない場合があるため、よく協議しましょう。

明らかに粗悪な鉄鋼材料に注意!

世の中には、明らかに品質が悪い鉄鋼材料も存在するため、注意が必要です。

それはどういった材料かと言うと、以下のような材料です。

  • 鋳造欠陥(空洞)や割れがある
  • 不純物の量が極端に多い
  • 化学成分、強度、寸法などが要求値に達していない
  • 材質を詐称している

「本当にそのような鉄鋼材料があるの?」と思われるかもしれませんが、中国では「地条鋼(ちじょうこう)」と呼ばれる鉄くずを溶かして固めただけの材料が市場に出回り、2017年頃に問題となりました。品質が粗悪なため、建物の崩壊事故や橋の崩落事故が相次いだそうです。

今は中国政府によって地条鋼の生産が規制されていますが、やはり中国、インドなどの海外産の鉄鋼材料には注意が必要です。加工すると割れた、などの話をよく聞きます。

一方で、日本の製鉄技術は世界でも高い水準にあるため、日本製の鉄鋼材料は高品質です。従って、鉄鋼材料を調達するときは日本製のものを調達するのが一番安心です。

用語の解説

①鋳造欠陥とは
 鋳造欠陥とは、金属材料を鋳造したときに生じる欠陥のことです。代表的な鋳造欠陥である「ひけ巣」は、材料の中に空洞が出来たような状態になっています。通常、ひけ巣は圧延や鍛造などでつぶされて消滅しますが、品質が悪い鉄鋼材料にはこのような鋳造欠陥が残っている場合があります。

鉄鋼材料を勉強しよう!

鉄鋼材料は製造方法や作りこみの程度で品質が変わるため、求める品質に応じて製造方法をメーカーに指定できることを解説してきました。しかし、鉄鋼材料にあまり詳しくない人がそのようなことを行うことは容易ではありません。

そんなときはやはり、鉄鋼材料について勉強し、品質について検討できるほどの知識を身に付けることが大切です。

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